目に視えない私と目が見えない彼
私は来衣先輩の背中を見送ってから、守護対象者の元へ帰ろうと夜道を歩いていた。

前の方から自転車に乗ったお爺さんが走ってくるのが見えた。微かに聞こえてくる鼻歌。
鼻歌を歌いながら、自転車を漕いでいるようだ。

私は、人には視えない存在なので、お爺さんにも目の前に私が歩いていることが視えていない。



お爺さんと自転車は私を目掛けて直進してくるだろう。


私って本当に死んでしまって、幽霊なのかな?
来衣先輩と会話をした余韻が、私の思考を迷わせた。


私、死んでないんじゃないかな。願いのような、そんな期待が僅かに残っている。


・・・確かめてみよう。
自転車を避けないことに決めた。


恐怖心がなかったわけじゃない。自転車とぶつかったら痛いし嫌だけど、確かめたい気持ちが大きかった。


お爺さんの鼻歌の音量が大きくなり、自転車はすぐ目の前まできていた。

いざ、目の前にくると怖い。
・・・・反射的に目を瞑る。
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