目に視えない私と目が見えない彼
離れた場所から2人を見守っていると、なにやらよくない空気に変わった気がする。嫌な胸騒ぎがしたので、会話がはっきり聞こえる場所まで近づいた。
「先生、大事な話あるんです」
「どうした?改めて放課後とかに聞くか?」
「いえ、すぐ終わるのでここで大丈夫っす。
…俺、学校辞めます、退学します」
え、来衣先輩が学校を退学する?
先輩は三年生で、あと数ヶ月しかないのに辞めるなんて・・・・・・、さっきの嫌がらせと関係あるのかな。
だめ、だめだよっ。
理由があるのかもしれないけど・・・・・・
けど、けど。
「———だめですっ!」
「・・・・・・えっ?」
「・・・・・・えっ?」
「(あああ!言っちゃった!!)」
気づくと思いっきり大きな声で叫んでいた。
突発的に出た言葉で、口に出してしまったことに、後から気づいて急いで両手で口を覆った。今更覆ったところで何の意味もないのに。
田口先生には私が視えてないので、声を出したら不審がられてしまう。
絶対に田口先生にも聞こえてるよね。
おそるおそる田口先生に視線を向けると、口をぱくぱくさせて、心なしか顔が青ざめた気がする。
あっ、これはダメだ。完全に聞こえてる。
「・・・・・・も、最上、今の声って・・・お前か?
お、お、俺だけに・・・・聞こえたのか?お、女?しょ、少女の声が、聞こえた・・・・・・」
田口先生は予想を遥かに上回るくらい怯えて、声は裏返っていて焦りの色が伝わってくる。それは誰が聞いても心配するくらいだった。