目に視えない私と目が見えない彼




「やめる」


「・・・・・・本当に辞めちゃうんですか?」


「ああ、学校辞めるのをやめる」


「・・・・・・本当ですかっ!」



声は高らかで弾んでいる。
今、君は笑顔を浮かべているのだろうか。

視線の先にいるはずなのに、表情は見えない。
光に包まれた君の存在は確かに感じるのに・・・・・・見えないんだ。





「悪い、最上待たせちゃったな。
・・・・・話があるってなんだった?」


校長先生に呼ばれていなくなっていた、田口先生が小走りで戻ってきた。


田口先生が戻ってきたと同時に、君は俺の目の前から遠ざかって、物陰に隠れているようだ。


「・・・・・・お、(お前、)」


声を掛けようと思ったけど、隠れるには田口先生に見つかりたくない理由があるのかもしれない。

まあ、知らないふりしてやるか。



「・・・・・・最上?」

「なんでもないです。・・・・田口先生、俺、このままこの学校通ってたら迷惑ですか?」


「・・・・・・」



しばらく無言の時間が続く。田口先生は、なにか考えるような顔をして口を噤んでいる。

やっぱり先生からしても、こんな生徒いたら迷惑だよな。そもそも田口先生は面倒ごとが嫌いそうなのに、相談なんてするべきじゃなかったな。



「なに言ってんだ。
・・・・・迷惑なわけないだろ。卒業まであと少しだろ」


「・・・・・・ありがとうございます」



田口先生の表情は見えないけれど、笑っているように感じた。迷惑じゃないと肯定してもらえたことで、胸のつかえが取れた気がした。

俺は誰かに「迷惑じゃないよ」と言って欲しかったのかもしれない。



心はスッキリして清々しい気持ちでいっぱいだった。軽く会釈をして田口先生と別れた。
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