目に視えない私と目が見えない彼


「お前、名前は?何年?」


「・・・・・・」



俺の問いに答えないので、しばらく無言の時間が続く。


おい、勘弁してくれよ。
相手の表情が見えない俺にとって、無言の状態は、どこか知らない場所に1人ポツンと取り残されたように居た堪れなくなるんだ。



「・・・・・・2年の、早川 未蘭です」



「・・・・・・未蘭」



聞いたのがまずかったのかと自分を責め立てていたので、返答が聞けてまずホッとした。


「・・・・・・未蘭?」


どこかで聞いたことがあるような。
頭の片隅にある記憶の蓋を開けたくても、顔が見えないから思い出せない。


「・・・・・・では、私は行きますね」


「待て!・・・・・・昨日会ったコンビニの前で待ってる」


「えっ、」


「目が見えなくなってから、扱えなくて携帯を捨てたんだ。だから連絡手段がない。18時に昨日のコンビニで・・・・・・」


「い、けません」


「まあ、俺は行くけど・・・・お前、未蘭が来るまで待ってるから」


困らせるのは承知で出た言葉だった。
相手の気持ちなど考えずに、なんて自分勝手だろうか。

自分でもわかってる。
わかってるけど、もう一度会いたいんだ。

君は俺の光。暗闇に取り残された一筋の光。
こんなこと言われても迷惑かもしれないけど。

また、会いたい。ここで約束しなければ、もう会えないような気がする。


目が見えなくなってきてから、自分の気持ちを隠して、平気なフリを武装してきた俺だけど、この気持ちには嘘をつきたくなかった。
< 87 / 256 >

この作品をシェア

pagetop