幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
第十六章 バレンタインデー
 「朱里ちゃん、もし新東京フィルから連絡来たら、メールで知らせればいい?」
 「はい。メールでも電話でも大丈夫です。よろしくお願いします」

 明日から始まる大学のテスト期間に備えて、朱里は仕事をある程度終わらせておこうと、あれこれ忙しくこなしていた。

 しばらく職場に来られない為、留守中の対応を田畑と川辺にお願いする。

 「朱里ちゃーん、スケジュール出来たらプリントアウトしてくれる?俺達で共有しておくね」
 「はい!承知しました」
 「朱里ちゃん、この書類チェックしてくれる?」
 「はい!承知しました」
 「朱里、こっちもチェック頼む」
 「はい!承知しました」

 矢継ぎ早にやり取りしたあと、四人はパソコン作業に戻る。

 が、それぞれ頭の中に、ん?とハテナが浮かんでいた。

 (なんか今、変な感じしたよね?)

 朱里が首をひねった時、川辺が口を開いた。

 「桐生部長。さっき朱里ちゃんのこと、朱里って呼び捨てにしませんでした?」

 朱里はハッとする。

 (そうだ、朱里って言ってた!おい、部長。何やってんのよー。どうするつもり?)

 朱里がヤキモキしていると、瑛がきっぱりと答えた。

 「いえ、してません」

 はあー?と朱里は呆れる。

 (何それ?しらばっくれちゃって、もう)

 すると川辺は、納得いかないといった顔で今度は朱里を見る。

 「朱里ちゃん。さっき桐生部長に朱里って呼ばれてなかった?」
 「…いえ、呼ばれてません」

 (くうー、結局私もしらばっくれちゃったよ)

 澄ました顔でパソコンを打っていると、川辺は首をひねりながらも作業に戻った。

 また静けさが戻ってきてホッとしていると、田畑がポツリと呟く。

 「川辺。俺も聞いたぞ、朱里って」
 「ですよねー!!」

 そして二人は、瑛と朱里を交互に見る。
 痛いほどその視線を感じながらも、朱里は澄ました顔で乗り切るしかなかった。
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