幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 「あ、栗田さん!桐生さんも。本日はありがとうございました!」

 ホールを出てロビーに下りた途端、楽団の事務局長に声をかけられた。

 「良かった、見つけられて。一言ご挨拶しようと、お二人を探していたんです」
 「あ、そうだったんですね」

 朱里は菊川に目線を送り、聖美のエスコートを任せた。

 「本日はお招きいただき、本当にありがとうございました。とても素晴らしい演奏で、感激いたしました」

 朱里は瑛と並んで頭を下げる。

 「こちらこそ。とても豪華なお花と祝電を頂き、ありがとうございました。あ、マエストロもお二人に出来れば挨拶したいと申しておりました。よろしければ控え室にご案内させてください」
 「はい」

 朱里は菊川を振り返る。
 菊川はクロークに預けておいた差し入れを朱里に渡し、聖美さんは私が…と頷いてみせた。

 「ありがとう。よろしくお願いします」

 朱里と瑛は、事務局長に連れられて東条の控え室へ行く。

 「マエストロ、桐生ホールディングスの桐生さんと栗田さんです」
 「おー!どうぞどうぞ」

 部屋の中から大きな声が返ってきて、事務局長がドアを開けた。

 「失礼いたします。終演直後でお疲れのところ、恐れ入ります。本日は素晴らしい演奏会にお招きいただき、ありがとうございました。こちらはよろしければ皆様でどうぞ」

 朱里が深々と頭を下げて差し入れを渡すと、これはこれは、お気遣いありがとう!と爽やかに笑いかけられる。

 「いかがでしたか?楽しんでいただけましたか?」
 「はい!それはもう…、感動で、胸が…」

 そこまで言うと、朱里は思い出して言葉を詰まらせ、また涙をこぼし始めた。

 「おやおや、綺麗な女性を泣かせてしまいましたね」

 東条が苦笑いする。

 「もう本当に、私の好きな曲ばかりで。とても幸せでした。ありがとうございました」
 「こちらこそ。素敵な涙をありがとう!演奏者冥利に尽きます。朱里さんは心の綺麗な方ですね。どうぞこれからも、その純粋さを大事にしてくださいね」
 「はい!」

 朱里は泣き笑いの表情で頷いた。
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