幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 オフィスのエントランスで東条達の車を見送ったあと、朱里は瑛に向き合った。

 「部長。パーティーに行く事をきちんとフィアンセの方に説明しておいてくださいね。私がここで働いている事も、彼女はご存知ないようでしたし。部長からお話しておいてください」

 すると瑛は硬い表情のまま、君には関係ない、とボソッと答える。

 「いいえ、関係あります。彼女はあなたとのことを少し悩んでいるようでした。これ以上不安にならないよう、前もって…」
 「これは俺達二人の問題だ!」

 急に声を荒げた瑛に、朱里は驚く。

 (…瑛?どうかしたの?)

 苦しげに顔を歪める瑛に、思わず朱里は以前のように声をかけそうになる。
 だが、すんでの所で踏みとどまった。

 「仕事に戻る」

 そう言い残し、瑛はスタスタとオフィスに入って行く。

 はあ、と社長が大きなため息をついた。

 「朱里ちゃん。どうしたものかねえ?瑛は、まるで結婚を仕事の一部のように考えている。義務感で聖美さんと結婚するのでは、彼女にも失礼な話だ」
 「…でも、私はもう以前のように彼とは話が出来ないので、相談に乗ることも出来ないのです」
 「それもおかしな話だろう?どうして聖美さんと結婚するからと言って、朱里ちゃんとの関係を切ろうとするのか。朱里ちゃんと聖美さんは仲がいいのに、瑛だけがおかしな言動をする。困ったものだねえ」
 「おじ様。先方の都築製薬の会長は、やはり瑛に大きな期待を寄せていらっしゃるのですか?瑛と聖美さんの結婚は、会社にも何か影響があるのでしょうか?例えば業務提携とか…」

 それ故、瑛はこの結婚に大きな責任を感じているのかと朱里は思ったのだが、いや、と即座に否定される。

 「そんな話は全くないよ。私も都築会長も、お互い年頃の息子と孫娘がいるって話をしていて、まあ機会があれば会わせてみようか、くらいの話だったから」
 「なるほど…。それなら瑛は、必要以上に何かを背負い込んでる感じがしますね」
 「ああ、私もそう思うよ。家でもどんどん表情が暗くなるし、口数も減って。好きな人との結婚を控えている幸せな雰囲気など、これっぽっちも感じない」

 うーん…と朱里は考え込む。

 「それに瑛だけじゃない。朱里ちゃんの話だと、聖美さんも悩んでいる様子なんだろう?どうしたもんかなあ。4月の初めに結納の予定だが、遅らせた方がいいのかもなあ」

 え!と朱里は驚く。

 「でも、瑛はそのつもりはないのでは?」
 「まあそうだろうね。いやー、難しい」

 気づくとかなり長い間二人で立ち話しており、見かねた社長秘書が近づいてきた。

 「社長、そろそろ…」
 「ああ、分かった。じゃあね、朱里ちゃん。あ、またうちに夕食でも食べに来てね」
 「はい、ありがとうございます」

 朱里はお辞儀をして見送った。
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