幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 「朱里」

 やがて瑛は、思い切って二人の間に割って入った。

 「食事まだだろう?」

 そう言って朱里に料理を盛り付けたプレートを渡す。

 「ありがとうございます」

 朱里は美味しそうな料理を見て、にっこりと受け取った。

 その笑顔に瑛がホッとしていると、東条が意味有りげに小さく聞いてくる。

 「桐生さんは、なぜ朱里さんを口説かないの?」

 は?と瑛は面食らう。

 「あの、私には婚約者がおります」
 「それは答えではないな」
 「…はい?」

 東条は、もたれていたバルコニーの手すりからゆっくり身体を起こす。

 「音楽はね、ただ真っ直ぐに自分の気持ちを伝えるんだ。婚約者がいるから正直な気持ちを君には伝えられない、なんてことは表現しない。どんな背景があろうとも、どんなに困難な状況でも、そしてたとえ報われなくても、ただ純粋に想いをぶつける。そういう音楽が人を感動させるんだ」

 そして瑛の前に歩み出る。

 「君はもっと、頭よりも心に従うべきだよ。自分の本当の気持ちにね。でも、もしそうしないならその時は…」

 東条は瑛の耳元に口を寄せると、低い声で告げた。

 「俺が彼女をもらう」

 瑛の心臓がドクンと脈打った。
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