幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 「朱里、ほら。もう少しだから」

 朱里の家に着き、瑛は2階への階段を朱里を支えながら上がる。

 朱里はなんとかベッドまでたどり着くと、そのままゴロンと横になった。

 「着替えなくていいのか?」
 「んー、だって眠いんだもん」

 目をトロンとさせながら、子どものような声で朱里が答える。

 「分かった。じゃあ玄関の鍵は、ドアポケットに入れておくからな」
 「うん」

 目を潤ませたあどけない表情の朱里は、本当に幼い頃の子どもに戻ったようだった。

 素直に自分達の気持ちを伝え合っていた、二人の幸せだった日々。

 「ゆっくり休めよ、朱里」
 「うん、ありがとう。瑛、だいすき」

 そう言うと朱里は安心したように微笑んだまま、スーッと眠りに落ちていった。

 「朱里…」

 瑛は切なさに胸が締めつけられる。

 あの頃と同じ純粋な眼差しで、だいすきと微笑んでくれた朱里。

 朱里の心は綺麗なままなのだ。
 ずっと自分に変わらない眼差しを向けてくれているのだ。

 (それなのに俺は…)

 瑛の目に涙が浮かぶ。

 「朱里、朱里…」

 胸が張り裂けそうに辛かった。
 ポタポタと涙がこぼれ落ちる。
 自分がどうにかなってしまいそうだった。

 思わず朱里を抱き締めそうになる。
 だが、だめだ!と必死で自分を律した。

 (桐生の人間だというだけで、心許せる友人も出来ない。好奇の目で見られ、誘拐されそうにもなる。あらぬ噂を立てられたり、逆恨みされたり。自分に近づく人物が、自分を陥れようとしているかもしれない。誰を信じていいのかも分からなくなる。そんな世界に朱里を入れる訳にはいかない。朱里は自由で明るい世界に生きるんだ。朱里には幸せになって欲しい。朱里だけは、どうか…)

 グッと拳を握りしめ、肩を震わせて必死で気持ちを落ち着かせると、瑛は朱里を振り返らずに部屋を出た。
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