幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 「それで、こちらがわくわくコンサート後に当社に届いたメールです。どれも、うちの地域でも開催して欲しいという、ご依頼のメールです。現時点で10件届きました。新東京フィルさんの所にも5件ほど届いたようです。その5件は関東近郊なのですが、当社に届いたメールは、北は秋田、南は鹿児島と、とても離れています。いずれも過疎地域のようです」
 「なるほど。どうやら宣伝効果はあったようだね」

 社長が、朱里の差し出した書類に目を通しながら言う。

 「はい。プレスリリースやホームページでご覧になったという方もいらっしゃいますね。桐生ホールディングスが東京だけでなく、今後は過疎地域でコンサートを開催し、地域の活性化や音楽の普及を手助けしたいという趣旨は広く伝えられたようです」
 「うん。まずは順調な滑り出しだな」
 「はい。それで今後ですが、ご依頼いただいた件は全てお引き受けする方向でいきたいのですが、なにせ件数が多いので、どこから手を付けるか迷っていまして…」

 うーん、と社長は書類を並べる。

 「どこからでもいいと思うけど、朱里ちゃんとしては、どういうやり方がやりやすい?」
 「そうですね。まずは全てのメールにお電話でお返事しようと思います。ヒヤリングをして、互いに趣旨が食い違っていないかを確認し、あとは依頼する楽団と開催するホール、招待するお客様についてうかがってみます。スムーズに進んだら現地の下見をして、大丈夫そうなら具体的な日程などの話をする。そんな感じで、いくつかを同時進行してみようかなと」

 頷きながら聞いていた社長は、顔を上げた。

 「そのやり方で構わないけど、朱里ちゃんの時間が取れるかい?大学もあるだろうし」
 「あ、もう四年生なので、講義はほぼないです。それに現地へ下見に行く際も、私の都合で先方に提案させていただこうと思っています」
 「分かった。じゃあ朱里ちゃんに任せるよ。出張には、瑛もついて行かせるから」

 ソファの端でボンヤリとしていた瑛は、急に二人に振り向かれ、ハッと我に返って慌てる。

 「あ、あの、何か?」

 はあー、やれやれと社長はため息をついた。

 「すまないね、朱里ちゃん。瑛は使い物にはならないけど、まあ、荷物持ちでもさせてやって」

 朱里は頷く訳にもいかず、苦笑いでごまかした。
< 126 / 200 >

この作品をシェア

pagetop