幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 瑛が菊川の運転する車で出かけ、部屋の片付けを済ませた朱里は、1階の調理場を覗いた。

 「まあ、朱里お嬢様。どうかなさいましたか?今ちょうど紅茶とケーキをお部屋にお持ちしようと思っておりましたのよ」

 ティーポットやケーキをトレイに載せながらそう言うのは、桐生家で長く働いている家政婦の千代だ。

 朱里や瑛が生まれる前から働いていて、ここに遊びに来るたび、朱里にも瑛や雅と同じように接してくれる。

 朱里にとって、優しいおばあさんのような存在だった。

 「ありがとう!千代さん。せっかくだから、ここで千代さんと一緒に頂いてもいい?」
 「え、ここで?!まさかそんな。朱里お嬢様はこんな厨房にいらしてはいけませんわ」
 「私、この家のお嬢様じゃないわよ?」
 「いいえ、朱里お嬢様はこの家の大切なお方です。さ、ではせめてリビングにどうぞ」

 千代に押し切られ、朱里は仕方なくリビングのソファに座る。

 千代が朱里の前に、美味しそうなケーキを置いてくれた時、玄関からバタバタと物音がしたかと思ったら、雅が息せき切ってリビングに入って来た。

 「朱里ちゃん!」
 「お、お姉さん?一体何が…」

 優を抱いた雅は、今にも泣き出しそうに不安そうな顔で朱里に話し出す。

 「さっき、主人の秘書から電話があったの。主人が…」

 声を詰まらせて目を潤ませる。

 「お姉さん、落ち着いて。ご主人に何か?」
 「う、うん。今日、静岡の工場の視察に行ってたんだけど。主人、高所作業台から足を滑らせて落ちたらしくて」
 「えっ!」

 驚いて大きな声を出してしまったが、すぐさま朱里は落ち着いて雅の背中をさすった。

 「それで?ご主人は今どちらに?」

 雅は、気持ちを落ち着かせるように大きく息を吸う。

 「静岡の病院に運ばれたって。今は色々検査中みたい。私、急いで車で向かおうとしたんだけど、感染症対策で付き添いは私一人じゃないとだめって言われて」

 朱里はすぐに察して頷いた。

 「優くんは私が。お姉さんはすぐにご主人の所へ行って」

 そう言って朱里は、優ににっこり笑いかける。

 「優くん、一緒に遊ぼうか。おいで!」

 優は素直に朱里に抱かれる。

 「朱里ちゃん、ごめんね!優のおむつとか着替えとかは、全部このバッグに入ってるから」

 雅は床にバッグを置いてから優に話しかける。

 「優、ママちょっと行ってくるね。朱里お姉ちゃんと遊んでてね」

 優は、あーうーと機嫌よく笑っている。
 雅はホッとしたように頷いた。

 「お姉さん、さあ早く!」
 「うん、ありがとう!朱里ちゃん」

 バタバタと雅は玄関から外に出ると、待たせていた車に乗り込んで去って行った。
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