幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 「それで、これが確定のタイムスケジュールね。ゲネプロは10時半から12時半。まあ、13時までなら延長してもいいかな。開場は13時半。受付には、中高生の子達と婦人会の皆さんがお手伝いに来てくれるって。お弁当とお茶の手配もオッケー。あとは…」

 和室の窓際のソファで、二人は明日の確認をする。

 瑛はふと隣の朱里を見た。

 テーブルに資料を並べて説明する朱里からは、風呂上がりのほのかなシャンプーの良い香りがした。

 いつもは結んでいることが多い肩下までの髪を下ろし、スッピンの顔は艶っぽく、ほんのりピンクに染まっている。

 「んー、こんなとこかな。瑛、桐生ホールディングスとして挨拶してもらうから、よろしくね。あとは何かある?」

 朱里が小首をかしげて聞いてくる。

 「朱里」
 「ん?なに?」
 「他の男の前でもそんなに無防備なのか?」

 ………は?と、朱里は目をぱちくりさせる。

 「え、一体なんの話?」
 「だから、なんでそんなに警戒心ないのかって。俺、一応男なんだけど」
 「ああ、そういうこと。だって瑛は幼馴染だもん。安心、安全なのは分かってるから」
 「俺、オーガニックの野菜じゃないんだけど」
 「あはは!人畜無害?確かに」

 明るく笑う朱里をじっと真顔で見つめていると、朱里の顔からも笑顔が消える。

 「あの、瑛?どうかした?」
 「…俺ってさ、いつまでお前の幼馴染なんだ?俺達はずっと子どものままじゃない。朱里、いい加減俺のこと男として見ろよ」

 …え?と朱里は戸惑う。
 そのセリフは、確かさっき女の子達が言っていたような…。

 「瑛、聞いてたの?」
 「は?何を?」
 「だから、さっきの話。いい加減俺のこと男として見ろよって言って、壁ドンしてあごクイってして、寸止めのキスするの」

 瑛は一瞬目を見開いてから、ギュッと眉根を寄せた。
 その瞳の奥に、ギラッと大人の色気が立ち昇るのを感じて、思わず朱里は息を呑む。

 「お前、俺のこと煽ってる?」
 「…え、ど、どういう意味?」

 瑛はグッと朱里に近づいた。
 ソファの背もたれに身体を押し付けた朱里は、それ以上さがれずに身を硬くする。

 互いの吐息がかかりそうな距離で、瑛が呟く。

 「お前、今まで俺がどんな気持ちでいたか知ってるか?」

 そう言うと朱里のあごを下から掬い上げる。

 視線を落とせなくなった朱里は、否が応でも瑛の瞳に絡めとられた。

 ゆっくりと瑛の顔が近づいてくる。
 唇が触れそうなところまでくると、瑛はピタリと動きを止めた。

 「朱里」

 少しでも動けば唇が重なりそうになり、朱里は固まったままゴクリと喉を鳴らす。

 「俺はもう小さな子どもじゃない。力づくでお前を押し倒せる大人の男だ。これ以上、無防備に俺を煽るな。分かったか?」
 「う、うん」

 かろうじて頷くと、瑛はスッと身体を離した。

 朱里は胸をドキドキさせたまま、深呼吸する。

 「明日は9時には会場入りだよな?着いたらテレビ電話で本社に様子を知らせよう」
 「あ、は、はい」
 「じゃあ明日に備えて早く寝るか」

 瑛は立ち上がってソファから離れた。

 朱里はまだドキドキしたままの胸に手を当てて、ふうと大きく息をつく。

 布団に入ってからも、隣の瑛が気になり、朱里はなかなか寝付けなかった。
< 149 / 200 >

この作品をシェア

pagetop