幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
第二十四章 やりたいこととは何か?
 「朱里、朱里?」

 瑛に呼ばれて朱里はハッと我に返る。

 「お前また号泣コースかよ。何回目だ?」
 「だって、こんな素晴らしいステージ、何度観ても感動しちゃって…」

 朱里はティッシュで涙を拭く。

 兵庫のコンサートを終えて戻ってくると、社長に報告を兼ねて桐生家で動画を観ていた。

 朱里は既に何度も観ているが、その度に涙が込み上げてくる。

 「いやー、これは泣くよ。素晴らしいコンサートじゃないか」
 「本当に…。皆さんの想いがひしひしと伝わってくるわ。それに吹奏楽部の女の子達の演奏、なんて素敵なのかしら」

 瑛の両親も、目を潤ませる。

 「ですよね?!もう私、ずっと余韻に浸っちゃって、他の事が手につかないくらいです」
 「朱里、次の話だってどんどん進んでるんだぞ?来週から東条さんが、訪問演奏2ヶ所回ってくれるし、それに、そうだ!これ…」

 瑛は、書類ケースの中から封筒を取り出した。

 「なあに?それ」
 「パーティーの招待状。東条さんから頂いたんだ。朱里、ジャパン・クラシカルミュージック・ソサエティの加賀美会長、覚えてるか?」
 「ええ。音楽業界のパーティーでお会いした、クラシック界の重鎮みたいな方よね?」
 「そう。その加賀美会長が主催するパーティーらしい。朱里、俺と一緒に行ってくれ。親父もおふくろ同伴で参加して欲しい。加賀美会長が挨拶したいって」

 え!と皆で驚く。

 「この四人で?なんだか不思議な感じだな」
 「あら、でも私は楽しみだわ。朱里ちゃんと一緒に行けるなんて」
 「私も。おじ様とおば様が一緒なら心強いです」

 それを聞いて瑛は頷く。

 「じゃあ、四人で行こう。日程は来週の金曜日の夜7時から。東条さんもいらっしゃるから、兵庫のコンサートのお礼と、訪問演奏の打ち合わせも出来ればと思ってる」
 「ええ、そうね。瑛、コンサート関係はしばらく私だけでやろうか?田畑さん達のサステナブルの活動にも携わってるんでしょう?忙しくない?」
 「いや、平気だ。俺もコンサート関係やりたいしな」
 「そう。それならいいけど」

 すると瑛の両親がにこにこと頷いた。

 「いやー、瑛も随分しっかりしてきたな。これも全部朱里ちゃんのおかげだ」
 「そうね。仕事のことだけじゃないわよ。瑛はいつも朱里ちゃんに助けてもらってるもの。朱里ちゃんがいなかったら、瑛は今頃どうなってたか…」

 そこまで言って、ふと瑛の母は真顔になる。

 「朱里ちゃん。彼氏はいるの?」
 「はい?!おば様、急に何を…」
 「だって朱里ちゃん、可愛いしお年頃だし。ほら、あのカルテットのチェロの彼!あの人朱里ちゃんのこと、なんだかいつも気にかけてる様子だったわ。もしや、あの人と?」

 朱里は苦笑いする。

 「奏先輩は、私の演奏を気にかけてくださってたんです。どうやって弾けばいいのか、いつもアドバイスしてくれて…」
 「それは、手取り足取り?」
 「いや、足は使わないので、手取りだけですけど」
 「手は取ったのね?!」

 いや、あの、弓の使い方とかですよ?と説明するが、どうやら瑛の母の頭の中には、違う絵が浮かんでいるようだった。

 「手を取り合って、熱心に練習を…。こうしちゃいられないわね。朱里ちゃん、次のパーティー、よろしくね!」

 何がどうよろしくなのかは分からないが、とりあえず、はいと朱里は頷いた。
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