幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
第二十五章 たどり着いた幸せ
次の日には足の怪我も良くなり、朱里は桐生家にお礼を言って自宅に戻った。
会社にも復帰し、早速次のコンサートの企画を進める。
そんな中、東京都内の高齢者施設への訪問演奏の日がやってきた。
演奏は、東条率いる新東京フィルハーモニー交響楽団。
演奏スペースの関係で、小編成での演奏となる。
瑛と朱里は、現地を視察したり、打ち合わせを重ねて本番の日を迎えた。
車椅子に座ったり、ベッドに横になったままのおじいさんやおばあさんも、にこにこと演奏に耳を傾け、知っている曲は口ずさみながら聴いてくれた。
中には涙ぐみ、目頭を押さえている人もいる。
演奏が終わると、皆は満面の笑みで大きな拍手をしてくれ、その姿に朱里は良かったなあと嬉しくなった。
「東条さん」
控え室に戻り、ひと息ついた頃合いを見て、朱里は東条に声をかける。
「本日も素晴らしい演奏をありがとうございました」
「こちらこそ。またお声かけいただいて光栄です」
「今後も本番が何件か続きますので、またどうぞよろしくお願いいたします」
「ああ。それより朱里さん、例の話は考えてくれた?」
朱里は少し視線を落としてから顔を上げた。
「はい。今日はそのお返事をさせていただければと思います。少しお時間よろしいでしょうか?」
「分かった。外に出ようか」
朱里は東条に続いて、小さな庭のベンチに座った。
「いやー、気持ちがいいな。外で演奏すれば良かった。はは!」
「本当ですね。鳥のさえずりも聞こえて、のどかですね」
しばらく二人で空を見上げる。
「音楽はいいなと、今日改めて思ったよ。演奏していくうちに、皆さんの顔がどんどん晴れやかになっていって」
「ええ。皆さんの心に響いているようでしたね」
「ああ。この活動はいいな。大きなホールで演奏するのとはまた違った感動を味わえる。音楽がちゃんと聴いてくれる人の心に届いたのが感じられて、俺も凄く嬉しくなったよ。朱里さん、俺はこの先もずっとこの活動を続けたい。君と一緒にね。返事を聞かせてくれるかな?」
朱里はゆっくりと頷いた。
「東条さんの音楽に対する想いを、私は尊敬しています。東条さんの目指す音、人々に伝えたい音楽、そして少ない観客や小さな演奏会をも大切にされているそのお姿は、とても素晴らしいと思います。私もその活動に、ほんの少しでも携われていたら、こんなに嬉しいことはありません」
「え、それじゃあ、引き受けてくれるの?」
朱里は小さく首を振る。
「私は広い視野で、たくさんの地域と色々な楽団を繋げたいと思っています。人と人とが音楽で繋がり、互いに心を通わせることが出来たら、それは私にとってもこの上ない幸せです。私はその活動を、大切な仲間と一緒に続けていきたいと思っています」
黙って聞いていた東条が、ポツリと呟く。
「つまり俺は、君の大切な仲間じゃないってことか」
「いいえ。東条さんも大切な仲間です。けれど、東条さんのマネージャーという立場になれば、私は広い活動が出来なくなってしまいます。東条さん、どうかこれからも音楽の世界を代表するお一人として、お力を貸していただけませんか?私は日本中を飛び回って、たくさんの人達に音楽を届けていきたいと思っています。もちろん、東条さんの音楽も」
しばらくうつむいてじっと考えていた東条が、頷いて顔を上げた。
「分かった。君の音楽に対する想いは本物だ。それに、正式なマネージャーではなくても、俺に演奏依頼の声をかけてくれる時はマネージャーとして動いてくれるんだろう?今までみたいに」
「はい。もちろんです」
「それならいいか。ま、あとは、君を彼女にするって手もあるしね」
朱里は眉を寄せて怪訝な面持ちになる。
「あはは!まあ、まだ早かったかな。もう少しアプローチしてから告白するよ。恋の曲は、じっくりゆっくりじゃなきゃね」
そう言って東条は、満足そうに笑った。
会社にも復帰し、早速次のコンサートの企画を進める。
そんな中、東京都内の高齢者施設への訪問演奏の日がやってきた。
演奏は、東条率いる新東京フィルハーモニー交響楽団。
演奏スペースの関係で、小編成での演奏となる。
瑛と朱里は、現地を視察したり、打ち合わせを重ねて本番の日を迎えた。
車椅子に座ったり、ベッドに横になったままのおじいさんやおばあさんも、にこにこと演奏に耳を傾け、知っている曲は口ずさみながら聴いてくれた。
中には涙ぐみ、目頭を押さえている人もいる。
演奏が終わると、皆は満面の笑みで大きな拍手をしてくれ、その姿に朱里は良かったなあと嬉しくなった。
「東条さん」
控え室に戻り、ひと息ついた頃合いを見て、朱里は東条に声をかける。
「本日も素晴らしい演奏をありがとうございました」
「こちらこそ。またお声かけいただいて光栄です」
「今後も本番が何件か続きますので、またどうぞよろしくお願いいたします」
「ああ。それより朱里さん、例の話は考えてくれた?」
朱里は少し視線を落としてから顔を上げた。
「はい。今日はそのお返事をさせていただければと思います。少しお時間よろしいでしょうか?」
「分かった。外に出ようか」
朱里は東条に続いて、小さな庭のベンチに座った。
「いやー、気持ちがいいな。外で演奏すれば良かった。はは!」
「本当ですね。鳥のさえずりも聞こえて、のどかですね」
しばらく二人で空を見上げる。
「音楽はいいなと、今日改めて思ったよ。演奏していくうちに、皆さんの顔がどんどん晴れやかになっていって」
「ええ。皆さんの心に響いているようでしたね」
「ああ。この活動はいいな。大きなホールで演奏するのとはまた違った感動を味わえる。音楽がちゃんと聴いてくれる人の心に届いたのが感じられて、俺も凄く嬉しくなったよ。朱里さん、俺はこの先もずっとこの活動を続けたい。君と一緒にね。返事を聞かせてくれるかな?」
朱里はゆっくりと頷いた。
「東条さんの音楽に対する想いを、私は尊敬しています。東条さんの目指す音、人々に伝えたい音楽、そして少ない観客や小さな演奏会をも大切にされているそのお姿は、とても素晴らしいと思います。私もその活動に、ほんの少しでも携われていたら、こんなに嬉しいことはありません」
「え、それじゃあ、引き受けてくれるの?」
朱里は小さく首を振る。
「私は広い視野で、たくさんの地域と色々な楽団を繋げたいと思っています。人と人とが音楽で繋がり、互いに心を通わせることが出来たら、それは私にとってもこの上ない幸せです。私はその活動を、大切な仲間と一緒に続けていきたいと思っています」
黙って聞いていた東条が、ポツリと呟く。
「つまり俺は、君の大切な仲間じゃないってことか」
「いいえ。東条さんも大切な仲間です。けれど、東条さんのマネージャーという立場になれば、私は広い活動が出来なくなってしまいます。東条さん、どうかこれからも音楽の世界を代表するお一人として、お力を貸していただけませんか?私は日本中を飛び回って、たくさんの人達に音楽を届けていきたいと思っています。もちろん、東条さんの音楽も」
しばらくうつむいてじっと考えていた東条が、頷いて顔を上げた。
「分かった。君の音楽に対する想いは本物だ。それに、正式なマネージャーではなくても、俺に演奏依頼の声をかけてくれる時はマネージャーとして動いてくれるんだろう?今までみたいに」
「はい。もちろんです」
「それならいいか。ま、あとは、君を彼女にするって手もあるしね」
朱里は眉を寄せて怪訝な面持ちになる。
「あはは!まあ、まだ早かったかな。もう少しアプローチしてから告白するよ。恋の曲は、じっくりゆっくりじゃなきゃね」
そう言って東条は、満足そうに笑った。