幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 「朱里?俺」

 ガチャッと玄関のドアが開いた途端、朱里が飛びついてきた。

 「瑛ー!怖かった…」
 「うわっ、押すな。ほら、中に入ろう」

 瑛は朱里の肩を抱いて玄関に入り、後ろ手に鍵を締める。

 部屋の中は真っ暗だった。

 懐中電灯を照らしながら2階に上がり、朱里の部屋にロウソクを灯した。

 部屋の中がほのかに明るくなる。

 「寒いな。ほら、朱里。これ掛けな」

 朱里をベッドに座らせて、ブランケットを肩に掛ける。

 朱里がようやくホッと息をついた時だった。

 ピカッと稲光がしたと同時にバリバリともの凄い音が響き渡る。
 
 「キャー!」

 朱里が瑛にすがりつく。

 たたみかけるようにまた稲妻が光ったかと思うと、ドーン!と地響きがした。

 (うわ、落ちたな)

 さすがに瑛も驚く。
 朱里はもう、小刻みに身体を震えさせていた。

 「瑛、ぎゅってして。怖いの」

 胸に顔を埋め、か弱い声でそう言う朱里に、え…と瑛はためらう。

 「それはちょっと、無理」
 「なによ!けち!小さい頃は、大丈夫だよって抱き締めてくれたのに」

 そう言って見上げてくる朱里の目には、涙が浮かんでいる。

 (こ、こんな状態で抱き締めたら、もうそのままベッドに押し倒す自信しかない)

 するとまた大きな雷の音がした。

 朱里はもう、瑛のシャツの胸元を握りしめ、顔を埋めて震えるばかりだった。

 瑛はそっと朱里の背中に両手を回し、優しく抱き締めた。

 「大丈夫、俺がいるから」

 うん…と、朱里は小さく頷いて身体の力を抜く。

 (雷が遠ざかるのと、俺の理性が持たなくなるのと、どっちが早いか…)

 瑛は頭の中で必死に、がんばれ俺!負けるな理性!とブツブツ唱える。

 「瑛、ありがとう。いつもぎゅって抱き締めてくれて。凄く安心する。瑛がいてくれなかったら私、どうなってたか。瑛、ずっと離さないでね」
 「ちょ、ちょっと待て、朱里。それ以上しゃべるな」
 「だって、何か話してないと不安になるんだもん。瑛、ずっとぎゅってしててね。大好き」
 「あああ、朱里。それはだな、吊り橋効果というやつだ。お前の本心じゃない。だからもう何も言うな」
 「本当だよ。だって瑛が抱き締めてくれると安心するの。ずっと一緒にいてね」

 瑛は眉間にシワを寄せて必死に耐える。

 (だめだ、だめだぞ!瑛。今のは幻聴だ。そうだ!九九でも唱えよう。1+1=2、あ、違う、これは足し算か)

 「瑛、小さい頃からいつもそばにいて、私を守ってくれてありがとう。私ね、近すぎて気づかなかったの。瑛がどんなに大事な人かってことに。瑛が婚約した時、私とはもう今までのように話せないって言われて、凄く凄く悲しかった」

 え…っと瑛は目を見開く。

 「瑛の幸せのために、一生懸命気持ちを切り替えようとしたの。本当はずっと、瑛って、前みたいに呼びたかった。何でも話して、一緒にふざける仲に戻りたかったの。瑛、今こうしてそばにいてくれて、本当にありがとう」
 「朱里…」

 ゴロゴロと雷が鳴る。
 キュッと胸元を握りしめて自分にすがってくる朱里に、瑛の理性がプツンと切れた。
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