幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 「朱里、俺を見て」

 え?と朱里が顔を上げる。
 ほのかなロウソクに照らされ、目に涙を溜めたあどけないその表情に、瑛は胸が締め付けられた。

 「朱里、俺のこと今でも小さい男の子だと思う?仲良しだったあの頃のままだと思うか?俺はもう大人の男だ。東条さんとお前が話しているのを見ているだけで嫉妬する。お前のことを、抱き締めたくてたまらなくなる。そんな欲望まみれの男なんだ。幼い頃の純粋さはもうない。だからそんなふうに俺をいつまでも誤解するな」

 朱里は瞬きを繰り返す。
 じっとうつむいて何かを考えてから顔を上げた。

 「私だってもう大人だよ。子どもの頃のように、ただ無邪気に好きって言ってるんじゃない。瑛が婚約した時も、寂しい気持ちを必死に抑えたの。瑛はもう、私とは違う所に行くんだって。今まで私と過ごしてくれてありがとう、どうか幸せになってって。そんな想いで瑛に捧げたの、リストの『愛の夢』を」

 瑛は言葉を失う。
 あの時の朱里の演奏。
 心が揺さぶられるように、涙が込み上げてきたあの曲。

 (俺の為に弾いてくれたのか?)

 切なさと温かさと優しさに満ちていたあの曲は、自分を想って弾いてくれていた。

 瑛は朱里を抱く手に力を込める。

 「朱里。お前はずっと俺の一番大切な存在だ。今までも、これからも。お前と一緒に過ごした日々が今の俺を作っている。お前がいなかったら、今の俺はいない。それはこれからも一緒だ。朱里、ずっと俺のそばにいてくれ。この先もずっと一生」

 朱里は涙をこぼしながら微笑んだ。

 「うん。私も瑛のそばにいたい。だって私の中に、いつだって瑛がいるんだもん。大事な思い出も、楽しかった日々も、全部瑛と一緒だった。この先もずっと、瑛と一緒に生きていきたい」

 瑛は胸がキュッと締め付けられるような幸せを感じた。

 今、自分の腕の中に、確かに朱里がいる。
 抱き締めたくてたまらなかった朱里を、今この手で抱き締めている。

 (夢じゃないよな?朱里は言ってくれたよな?俺と一緒に生きていきたいって)

 幸せすぎて信じられない。

 「朱里、キスしていい?」

 すると朱里は真っ赤になり、小首をかしげて、んー…と考え込む。

 「恥ずかしいからだめ…って言ったら?」

 頬を膨らませ、上目遣いに照れたように聞いてくる。

 「反則。可愛すぎる」

 瑛はふっと微笑むと、朱里の頭の後ろに手を添えて抱き寄せ、そっとキスをした。

 近すぎて遠かった二人の距離。
 いつも一緒にいたのに、言えなかった言葉。
 長い長い遠回りをして、ようやくたどり着いた二人の幸せ。

 色んな想いが胸に溢れてくる。

 そして良く知っているはずなのに、初めて知る互いの一面。

 こんなにも愛おしくて、こんなにもドキドキするなんて…

 初々しいキスのあと、二人は互いに照れてうつむいた。

 「朱里。ごめん、俺、余裕なくて。もうどうしようもないくらい、舞い上がってる」

 すると朱里は、ふふっと笑って瑛の耳元で囁いた。

 「瑛、だいすき!」

 瑛の顔が一気に赤くなる。

 「参った…。もうほんとにお前は、いつだって可愛い」

 そして二人はもう一度目を閉じて互いに顔を寄せ合い、長い長いキスをした。

 雷はいつの間にか遠ざかっていた。
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