幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 「ふう、やっと静かになったな」

 2階の部屋に上がり、千代が二人分のケーキと紅茶を置いて部屋をあとにすると、ようやく瑛はホッしたようにソファに座った。

 「ふふ、賑やかで楽しかった!素敵なプレゼントまでいただいちゃったし」

 朱里も隣に座り、美味しそうにケーキを頬張る。

 「昔から朱里はイチゴのケーキが大好きだよな。そうやって嬉しそうに食べる顔は全然変わらない」
 「だって本当に美味しいんだもん」
 「それはいいけど。鼻の頭にクリーム付けるのも、全然変わらないな」

 え、嘘!付いてる?と朱里は慌てて指で鼻の頭を触る。

 「そこじゃなくて、ここ」

 瑛は自分の人差し指で朱里の鼻に付いたクリームを取ると、ぺろっと舐めた。

 それを見て、朱里は顔を赤くする。

 「おい、なんで照れてるの?」
 「いや、なんか、その…。ラブラブな恋人同士みたいなことするんだもん」

 は?と瑛は呆気に取られる。

 「やれやれ、まだラブラブが足りなかったか…」
 「あ、そういう意味じゃなくて…」
 「じゃあどういう意味?」
 「うっ…」

 朱里は顔を赤くしたまま口ごもる。
 瑛は朱里の肩を抱き寄せた。

 「こんなことくらいで照れてるようじゃ、先が思いやられる。もっと朱里とラブラブしないとな」
 「ね、ちょっと、そのラブラブってなんかダサくない?」
 「はあ?朱里が最初に言ったんだろ?」
 「でも瑛が言うと、なんかオヤジっぽいんだもん」
 「なんだとー?可愛く照れてるかと思ったのに、俺をオヤジ呼ばわりする余裕はあるんだな?それなら手加減いらないよな」

 そう言うと、いきなり朱里の頭を抱き寄せてキスをした。

 ん!と朱里が身をよじると、瑛はますます強く朱里を抱き締める。

 息もつけないほど何度もキスをされ、ようやく身体が離れると、朱里はふうと息をつき、潤んだ瞳で瑛を見上げた。

 艶めいたその表情に、瑛は愛しくてたまらなくなる。

 「朱里…」

 また唇を奪い、胸にギュッと朱里を抱き締めた。

 「瑛…」

 朱里が小さく呟いて、瑛の背中に腕を回す。

 なんて温かくて、なんて幸せなんだろう。

 互いの心が通じ合うのを感じて、二人は胸がいっぱいになる。

 やがて瑛がそっと朱里の身体を離した。

 「朱里」
 「なあに?」
 「俺はずっと、朱里のそばにいてはいけない人間なんだと思ってた。朱里には、穏やかで幸せな毎日を送って欲しいって。桐生家に生まれた俺や姉貴みたいな思いを、朱里にはさせたくない。だから俺は、朱里を好きだという自分の気持ちを認めないようにしてきた」

 真剣に話す瑛の顔を、朱里はじっと見つめる。

 「でも、どんなに抑えようとしてもだめだった。どんなにあがいても、俺は朱里が好きなんだ。だから決めた。もう自分の気持ちに嘘はつかない。そして俺が朱里を守っていく。朱里が傷ついたり、悲しんだりしないように、俺が盾になってお前を守る。それだけの強さを持って、お前を幸せにする。だから、俺と結婚して欲しい」

 朱里は真っ直ぐに瑛を見つめて、ゆっくりと口を開く。

 「瑛。私は小さい時からずっと瑛のそばにいて、ずっと瑛が好きだった。でも、瑛が抱えている悩みや苦しみには気づいてあげられなかった。瑛は私のことを考えて離れようとしていたのに、私はそんな瑛の気持ちを知らずにただ悲しくて泣いていたの。だからこれからは、何でも私に話してね。瑛が傷ついたり悲しんだりしないように、私も瑛を守るから。瑛は優しくて強い人だよ。世間がなんて言ったとしても、私がちゃんと瑛を知ってる。私がずっと一生、瑛をそばで支えるから。だから、私と結婚してください」
 「朱里…」

 瑛の目に涙が滲む。
 抑えきれない気持ちが込み上げてきて、たまらず朱里を強く抱き締めた。

 「ありがとう、朱里」
 「ふふ、こちらこそ。ありがとう、瑛」

 目を潤ませた瑛は、照れ隠しのように朱里に笑いかける。

 そしてポケットから小さな箱を取り出した。

 中には輝くダイヤモンドのエンゲージリング。

 眩い輝きに朱里が息を呑んでいると、瑛はそっと指輪を取り出した。

 「結婚しよう、朱里。必ず幸せにする」
 「はい」

 二人で優しく微笑み合うと、瑛は朱里の左手を取り、ゆっくりと薬指に指輪をはめた。

 長かったトンネルをやっと抜け出し、ようやく掴んだ幸せに、二人は胸を震わせる。

 「ごめんな。家でプロポーズなんて、ロマンチックでも何でもなくて」
 「ううん。ここでプロポーズされて良かった。私達が子どもの頃から過ごしてきた場所だもん」
 「朱里…」

 瑛は朱里を優しく胸に抱く。

 互いの気持ちを確かめ合うように、二人はまたそっとキスをした。
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