幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 「おはようござ…」
 「来たーーー!!!」

 出社して部屋のドアを開けた途端、田畑と川辺に絶叫されて、朱里はビクッと立ちすくむ。

 「朱里ちゃん!いや、ご婦人?奥様?どう呼べばいいの?」
 「は、はい?あの、何のお話でしょうか?」
 「社内報だよ!全社員に一斉メールでお知らせが来てる。『桐生 瑛と栗田 朱里の入籍のご報告』って」

 ええー?!と朱里は仰け反る。

 「ってことは、皆さんもうご存知なんですか?」
 「存じてますとも!他の部署のやつらも大騒ぎで…。ほら、見てよ」

 振り向くと、ガラス窓の向こうにズラーッと人が並んでこちらを見ていた。

 「ひえ!どうしよう」

 とりあえず朱里は、窓の外の集団にペコリと頭を下げる。

 「それで朱里ちゃん、旦那様は今どちらに?」
 「だ、旦那?いえ、あの、部長でしたら社長室に顔を出してから、こちらに来るとのことでした」
 「なるほど。でもこの状態だと、この部屋はパンダ部屋みたいになるな。貼り紙でもして隠すか?」

 その時、キャーと女性社員の高い声が聞こえてきた。

 見ると、瑛が人の間をぬってこちらに向かっている。
 
 「失礼」

 そう言って軽く手を挙げてから、部屋のドアを開けた。

 キャー!ワー!という歓声の中、どの人?あの子?という声も聞こえてくる。

 朱里はなんだか肩身が狭くなって、小さく頭を下げた。

 「部長、おはようございます。いやー、びっくりしましたよ」
 「でも既に入籍されたんですよね?おめでとうございます!」

 田畑と川辺に拍手され、二人はありがとうございますとお辞儀をする。

 「朝からお騒がせしてすみません。実は午後にニュースリリースすることになっていまして。その前に取り急ぎ社員の皆様にお知らせしようと、社長が発信したようです。お二人には直接ご報告したかったのですが、間に合わず申し訳ありませんでした」
 「そうだったんですね。いえいえ、そんな。おめでたい話題で、私達も舞い上がってましたよ。なあ、川辺」
 「本当に。以前から、ひょっとして部長と朱里ちゃんは…なんて思ってたんですが、まさかゴールインされるとは!嬉しい限りですよ。それで、挙式はいつ?」
 「それがまだ決まっていなくて…。仕事が落ち着いた頃に考えたいと思っています」
 「そうですか。その時は是非私達も招待してくださいね。いやー、楽しみだなあ」
 「はい。ありがとうございます」

 すると瑛がふいに、朱里と声をかけた。

 「は、はい!」
 「そういう訳で、社長が先走ってすまなかった。午後には関係各所にFAXで報告がいく。マスコミも問い合わせてくると思う。今日は外に出ないようにしてくれ。帰りは地下駐車場から車に乗って。菊川が屋敷まで送って行くから」
 「か、かしこまりました」

 朱里はドギマギして答える。

 「朱里ちゃん、普通に会話していいんだよ?」
 「そうそう。俺達のことは気にせず、あなたーって」

 田畑達の言葉に朱里は真っ赤になる。

 「ま、まさか、そんな!」
 「あはは!照れちゃって、朱里ちゃんウブだなー」

 川辺がそう言って笑った時、んん!と瑛の咳払いが聞こえてきた。

 「朱里、今夜は俺もなるべく早く帰るから。部屋で待ってて」

 そう言ってにっこり笑う瑛に、ひー!と朱里は仰け反る。
 田畑と川辺も固まっていた。

 その後もまともに仕事が手につかない3人を尻目に、瑛だけはテキパキとこなしていた。
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