幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 「ねえ、菊川さん」
 「はい、何でしょう」

 朱里は美味しい料理を食べながら、会場で色々な人と笑顔で会話している瑛を見つめる。

 「瑛って、ちゃんとお仕事してるんですね。あんな瑛は初めて見ました」

 菊川も、瑛に視線を向けながら頷く。

 「そうですね。瑛さんも、こういった社交の場はあまり得意ではないのでしょうが、いつもきちんと振る舞っていらっしゃいます」

 朱里は手を止め、瑛が、普通が一番幸せだと言っていたことを思い出す。

 「菊川さん。瑛は幸せなのでしょうか?」

 ポツリと朱里が呟くと、菊川は少し意外そうに朱里を振り返った。

 「瑛はきっとこの先も、桐生 瑛としてこんなふうに仕事をしていくのでしょう?苦手なパーティーにも参加して、彼女でもない女性をエスコートして…」

 朱里の視線の先に、にこやかに年上の男性と会話している瑛がいた。

 「いつもの軽いノリは封印して、スマートに仕事をこなして」

 その時、会場内に軽快な音楽が流れ始めた。

 カップルはフロアの真ん中に集まり、ダンスを踊り出す。

 スレンダーな外国の女性が瑛に声をかけ、頷いた瑛は女性の手を取ってフロアに促すと、彼女の腰に手を回して軽くステップを踏み始める。

 「ええ?!瑛、社交ダンスなんて踊れるの?」
 「はい。瑛さんも雅お嬢様も、ひと通り社交的な事はこなされます」

 そう言うと菊川は、改めて朱里に話し出す。

 「朱里さん。瑛さんは真剣に仕事と向き合っていらっしゃいます。大学に通いながらなので今はまだそんなに多くは関わっていませんが、将来の自分の立場を理解し、懸命に業務を学ぼうとしていらっしゃいます。ですが、その先に瑛さんにとっての幸せがあるのかと聞かれれば、私は何も言えません」

 朱里は黙って菊川の言葉を聞く。

 「仕事でやりがいを感じることはあるでしょう。ですが瑛さんは、仕事一筋に生きるタイプではないと私は思います。安心して自分をさらけ出し、心の底から笑い合える人と穏やかに過ごす時間が、瑛さんには必要だと」

 朱里は大きく頷いた。

 「私もそう思います。瑛は、本当は自由に気ままに生きていきたいのかもしれません。桐生家に生まれ、それが叶わないと思いつつも、恨み言など言わずに真摯に向き合っている。せめて家に帰れば、穏やかな時間を過ごして幸せを感じてくれたら」

 いつの間にか会場内は照明が落とされ、軽快だった音楽も、しっとりとした静かな曲に変わっていた。

 瑛は別の女性と手を取り合い、身体を密着させてチークダンスを踊っている。

 どこか寂しそうな憂いを秘めたその横顔に、朱里は胸がキュッと締めつけられるのを感じた。
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