幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 食堂に着き、それぞれメニューを決めて空いている席に座る。

 「ってことはさ、やっぱり考えてないの?桐生ホールディングスへの就職は」

 麻婆豆腐定食を食べながら、香澄が聞いてくる。

 朱里はギクリとして、思わず辺りをうかがった。

 「なに?キョロキョロしてどうしたの?」
 「香澄ちゃん、その話はここではしないで」
 「その話って?桐生ホールディングスのこと?」
 「だから、シーッてば」

 ん?と香澄は首をかしげる。
 朱里は、先日ここでの会話を聞かれて声をかけられたことを香澄に話した。

 「そうなんだ!やっぱり凄いねー、桐生ホールディングスは」
 「だから!もう香澄ちゃんってば」
 「あ、ごめんごめん」

 香澄は明るく笑ったあと声を潜める。

 「それで?その声をかけてきた人とはつき合わないの?」
 「は?つき合う訳ないじゃない。だって私と瑛を利用するつもりなんだよ?」
 「そうだけどさ。朱里、全然浮いた話もないから、もう練習だと思ってとりあえずつき合ってみても良かったんじゃない?」

 良くない!と、朱里は頬を膨らませて怒る。

 「けどさー、せっかくの大学生生活。勉強と就活だけで終わっちゃうよ?」
 「それだけじゃないもん。サークル活動もしてるもん」
 「あー、あの潰れかけのどんチャカ団?」
 「管弦楽団!それにまだ潰れてなーい!」
 「まだってことは、いずれ潰れるの?」
 「潰れませんってば!今日だって放課後練習あるんだよ」

 そう言って朱里は、傍らに置いていたヴァイオリンケースを指差す。

 「ふーん。でも私、そのヴァイオリンを拝見するのは随分お久しぶりですけど?」

 朱里は、ウッと言葉に詰まる。
 確かに朱里が所属している管弦楽団は幽霊部員の方が多く、活動日もろくに人が集まらないのが常だった。

 高校の管弦楽部で毎日何時間もヴァイオリンを練習していた朱里にとっては、今のなんともゆるい活動は少し物足りない。

 最近では演奏会の機会も減り、もっぱら練習に集まったメンバーでアンサンブルを楽しむ程度だった。

 「でもね、今度演奏会やることになったの!大きなコミュニティマンションのロビーで、弦楽四重奏!」
 「あら、そうなの?」
 「うん。この大学に通ってる人が、そのマンションに住んでてね。管理組合で毎月住人向けのイベントを企画するんだって。それで、うちのサークルに演奏を依頼してくれたの」
 「それってノーギャラ?」
 「もちろん。演奏の機会をもらえただけで有り難いわよ」
 「ひえー、もう管弦楽団じゃなくて、ボランティア団体じゃない」
 「いいのいいの。何とでも言って」

 久しぶりに仲間と演奏出来る、それだけで朱里は充分嬉しかった。
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