幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 「ごめん、先に控え室戻ってて」

 美園にそう言い残し、朱里は楽器を持ったまま桐生家御一行様のもとへ行く。

 「朱里ちゃーん!とっても素敵だった!」

 雅が興奮気味に話し出す。

 「優もね、ノリノリだったのよ。コンサートで音楽聴くのなんて、まだまだ早いと思ってたけど、すごく興味深々だったの。ネコの鳴き声なんて、キャッキャッ言って喜んで、手拍子もしてね。朱里ちゃんに見つからないように、パーテーションの向こうで隠れて聴いてたんだけど、最前列で聴きたかったわ。あー、本当に楽しかった!」
 「あ、ありがとうございます。私達、アマチュアですし、そんなに上手くなくてお恥ずかしい…」
 「そんなことないわよ!皆さんとっても引き込まれてたし。いいわねー、こんな演奏会。子どもがいても、気兼ねなく聴けるし。第一子どもにも聴かせたいものね、音楽は」
 「そう言って頂けると…。あの、ところでどうしてここに?住人の方しか入れないと思うんですけど」

 すると、両親がにこにこと話しかけてきた。

 「朱里ちゃん、実はね。このマンションは桐生グループが手掛けたんだよ。設計も建設も販売もね」
 「ええ?そうだったんですか!」
 「それでね、菊川が教えてくれたのよ。朱里ちゃんが今日ここで演奏するって。もうそれは聴きに行くしかないでしょう?あー、でも黙ってるの大変だったわ。菊川に口止めされてね。朱里ちゃんが動揺したらいけないからって。でも本当に素晴らしかったわ!」
 「まったくだよ。朱里ちゃん、今日の演奏会の写真、大々的にホームページに載せてもいいかい?うちのマンションは、こんなに素晴らしい催しで住人の皆様に喜ばれているんだって伝えたいんだよ」

 ひえー!と朱里はおののく。

 「えっと、その、あの」
 「いやー、これはうちの他のマンションでもやるべきだな。どうだろう?カルテットの皆さんにまたお願い出来ないかな?」
 「あ、そ、その、聞いてみます…」
 「ああ。是非!」

 朱里は、とにかく着替えてきますと言って控え室に戻った。
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