幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 車のハンドルを握りながら、菊川はバックミラー越しに後部座席の二人の様子をうかがう。

 瑛と都築製薬の令嬢。
 二人は不自然なほど、それぞれ左右のドアの近くに座り距離を取っていた。

 瑛はぼんやりと窓の外を見ている。

 「あの、瑛さん」
 「はい、何でしょうか」
 「あ、はい。私、お母様に何かご無礼な振る舞いをしないか心配で…」
 「あなたがそんな事をされるはずはありません。どうぞご心配なく」
 「あ、はい…」

 瑛は再び外に目をやり、令嬢はますます身を硬くしたようだった。

 やがて屋敷に到着し、車を停めた菊川は、瑛の横のドアを開ける。

 瑛は車を降りると反対側に回り、令嬢に手を差し伸べた。

 「ありがとうございます」

 恥じらいながらそっと瑛の手を握って、令嬢が車を降りた時だった。

 「お邪魔しましたー!」

 明るい声が聞こえてきて、思わず皆はそちらを見る。

 玄関から朱里が出て来て、トントンと軽やかに短い階段を下りると、そのままタタッとアプローチを進む。

 と、ふと視線を上げて車の横にいる瑛を見た。

 「あ、瑛!お帰り」
 「ただいま。来てたんだ」
 「うん。おば様からメールもらったの。今日お客様用にたくさんケーキを焼いたからおすそ分けにって。ほら!」

 そう言って、小さな箱を目の高さに上げて見せる。

 次の瞬間、瑛の後ろに令嬢の姿を見つけて、朱里の顔から笑顔が消えた。

 朱里の視線を追ってそれに気づいた瑛が、彼女に朱里を紹介する。

 「聖美(きよみ)さん。彼女は私の幼馴染…」
 「いえ!あの、私、桐生家の隣に住む栗田と申します。いつも桐生の皆様には良くしていただいてまして。今日も奥様からおすそ分けを頂きに来ただけなんです」

 朱里が瑛の言葉を遮って早口でまくし立てる。

 「あ、そうでしたか。わたくしは、都築 聖美と申します。初めまして」
 「初めまして。それでは私はこれで」

 お辞儀をすると、朱里はそそくさと立ち去った。

 (なんだ?あいつ。変だな)

 瑛がじっと朱里の背中を目で追っていると、菊川の咳払いが聞こえてきた。

 「あ、失礼。ではどうぞ中へ」
 「は、はい」

 瑛は聖美を屋敷の中へ促した。
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