幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 「朱里さん、ご自宅までお送りします」

 そろそろ帰ろうとソファから立ち上がった朱里に、菊川が声をかける。

 「いえ、そんな。すぐ隣なんだもの、大丈夫です」

 菊川は朱里の言葉を聞き流し、リビングのドアを開けて朱里を促した。

 「どうぞ」

 朱里は仕方なく頷いて部屋を出る。

 「じゃあ、お邪魔しました」

 玄関で靴を履き、雅と瑛を振り返って挨拶すると、優を抱いた雅が微笑む。

 「また来てね、朱里ちゃん」
 「はい、ありがとうございます。優くん、またね!」

 朱里は優の小さな手を握ってから、雅と笑顔で別れた。

 外に出ると、夕暮れの心地よい風が吹いている。
 朱里は菊川と肩を並べて歩き始めた。

 隣家と言っても桐生家の屋敷が広い為、朱里の家までの距離は長い。

 何を話そうかと考えてから、朱里は口を開く。

 「菊川さん、夕べは大丈夫でしたか?犯人を取り押さえた時にケガは?」
 「いえ、大丈夫です。これでも護身術は身につけていますので」
 「そうなんですか?菊川さん、スタイルも良くてスラッとしてるし、そんなふうに見えないです」
 「一応、毎日身体は鍛えています。脱いだら結構すごいですよ」

 ぬっ、脱いだら?!と思わず聞き返してしまい、慌てて朱里は口を押さえる。

 「ふふ、失礼しました」

 菊川は大人の余裕を見せながら朱里に笑った。
 朱里はドギマギしながらうつむいて歩く。

 (いつも本当にかっこいいな、菊川さん)

 幼馴染の瑛と遊んでいた幼い頃から、いつも二人の傍らには菊川がいた。

 瑛と朱里は同い年、雅は6歳年上で、菊川は雅よりさらに5歳上。
 朱里達とは11歳も違い、今は32歳のはずだ。

 幼い朱里にとって頼りがいのあるお兄さんだった菊川は、いつの間にか憧れの男性になっていた。

 こうやって一緒に歩いているだけで、朱里は胸がドキドキする。

 「朱里さん、大学生活はどうですか?」
 「あ、はい。毎日楽しいです。でもそろそろ就職活動の準備も始めないと」
 「そうか、もうそんな時期なんですね」

 菊川はしみじみとした口調になる。

 「あんなに小さかった朱里さんが、もうそんなに…」
 「え、菊川さん。いったい何歳の私を思い出してるんですか?」
 「6歳です。ランドセルを背負って嬉しそうに入学式に向かう朱里さん、本当に可愛らしかったです」

 えっ!と朱里は驚く。

 「菊川さん、そんなに前から私のことを知っているんですか?」

 朱里の記憶の中では、いつ菊川と知り合ったのかははっきりしない。
 けれど11歳という年の差から言っても、そこまで昔だとは思っていなかった。

 「私が6歳ってことは、菊川さんはその時?」
 「17歳の高校生でした」
 「えっ?!高校生の時に、もう桐生家で働いていたんですか?」
 「いえ、その時は桐生家に養ってもらっていました」

 思いも寄らない菊川の言葉に、朱里は返事も出来ずにいた。

 (養ってもらう?それはどういう…)

 そんな朱里の胸中を察したのか、菊川が静かに話し出す。
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