幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 「うわー、とっても良い席ね」
 「ええ。同じ聴くなら、やはり良い音がする席で聴きたいですものね」
 「でもいいの?こんな高価なチケットを譲っていただいても」
 「もちろんですわ。私がお誘いしたんですもの」
 「そう?じゃあお言葉に甘えて…。聖美さん、どうもありがとう!」

 朱里が聖美と話しているうちに開演時間となった。

 照明が落とされ、人々は静まり返ってステージに注目する。

 やがてステージの左右から団員達が入って来て、オーボエのAの音に合わせてチューニングする。

 それだけで、朱里は胸が高鳴った。

 ステージマネージャーの拍手と共に、指揮者がソリストと一緒に入場する。

 客席から大きな拍手が起きた。

 ソリストはゆっくりとお辞儀をし、チューニングをしてから指揮者とアイコンタクトを取る。

 ホールの空気を支配していくように、気持ちを整える演奏者達。

 すっと指揮者がタクトを構えた。
 そして魔法の杖のように、タクトの動きに合わせて音が響き渡る。

 朱里の胸に、すでに感動が込み上げてくる。
 音楽が徐々に盛り上がり、一瞬の静けさのあと、ソリストが最初の音を響かせた。

 その瞬間、朱里の思考回路が止まった。
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