幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 「はーー、もう、うっとり!素敵だったー」

 朱里は胸に手を当てながらホールを出る。

 「本当ですよね!ソリストの演奏と、それを支えるオーケストラ、どちらも見事でしたわ」
 「うんうん。オーケストラがじわじわ盛り上げる中、ソリストが低い音から一気に駆け上がっていくところ、もう鳥肌がブワーッて立っちゃった」
 「分かりますー!あの解き放たれた瞬間、もうパーッと世界が輝きますよね」
 「そう!もう天にも登りそうな感覚!」

 二人の感想は、車の中でも止まらない。
 だが、いつの間にか聖美の屋敷に着いていた。

 「あー、もっと朱里さんとお話したかったですわ」
 「本当にね。でも聖美さんの門限があるから、今日のところはこれで」
 「はい」

 菊川がエンジンを切ると、聖美は改まったように朱里に話し出した。

 「朱里さん、本当にありがとうございます」
 「え?何が?」
 「私、朱里さんのことが大好きなんです!」

 へ?と朱里は呆気に取られる。

 「あ、あ、あの、聖美さん?フィアンセの前で一体、何を…」

 チラチラと助手席の瑛を気にしつつ、朱里は慌てふためく。

 「私、朱里さんとお知り合いになれて、本当に嬉しいんです。こんなに楽しくおしゃべり出来る人、今までいなかったので」
 「え?あ、そう…」
 「どうかこれからも、私とつき合っていただけませんか?」
 「そ、そ、それは、その…。フィアンセの方にお聞きになった方が…」

 朱里が瑛を見ると、瑛はしれーっと窓の外を見ている。

 (瑛のやつー!何とか言いなさいよ!)

 「えっと、その。わ、私で良ければ、喜んで…」

 (って言っていいんだよね?まさか彼女、深い意味はないわよね?)

 我関せずの瑛に業を煮やし、菊川を見ると、あろうことか口元に手をやって笑いを堪えている。

 (なにー?!菊川さんまで!)

 すると聖美が朱里の手を取り、両手でギュッと握りしめた。

 「朱里さん!」
 「ひーっ!は、は、はい!」
 「どうか私のことをお見捨てにならないでくださいね。いつまでも私は朱里さんと一緒にいたいのです」
 「そ、そ、そのお言葉は、どうぞフィアンセの方に…」
 「またお会い出来る日を心待ちにしておりますわ。どうぞお元気で…。ごきげんよう」
 「は、は、はい。ごご、ごきげんよう」
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