幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
第二章 心許せる親友
 「朱里ー、学食行こっ!」

 午前中の講義を終えると、仲の良い香澄(かすみ)に声をかけられた。

 「うん、ちょっと待ってね」

 教科書とノートをカバンに入れ、朱里は立ち上がって香澄と一緒に食堂へ向かう。

 急いで向かったが、既にほとんどの席が埋まっていた。

 なんとか二人分の席を見つけ、カバンを置いてから注文カウンターでメニューを選ぶ。

 「今日の日替わりランチ、チキンカツ丼だって。それにしようっと」

 そう言って朱里は券売機で食券を買う。
 香澄はハンバーグ定食にすると言って、離れたコーナーに注文しに行った。

 それぞれトレイを手にテーブルに戻る。

 「ね、朱里ってさ。就職先どこにするの?やっぱり桐生ホールディングス?」

 香澄に聞かれ、朱里は食べかけのご飯が喉に詰まりそうになる。

 「ど、どうしてそうなるの?」

 コップの水を飲んで落ち着いてからそう言うと、香澄はハンバーグをナイフで切りながらサラッと言う。

 「だって、普通ならそうするでしょ?あんな大企業とお近づきになってるんだから、そのままそこで雇ってもらおうって」

 慌てて朱里は否定する。

 「そんなこと、考えてもみなかったよ」
 「嘘でしょ?私のゼミの子達もこの間ヒソヒソ話してたよ。栗田さんって、桐生ホールディングスの御曹司と幼馴染らしいよ。羨ましいーとかなんとか」
 「だからってそんな。私、教育学部だよ?それにたまたま瑛と幼馴染ってだけで、桐生ホールディングスとどうとかって関係じゃないもん」

 すると香澄は、ひえっと仰け反る。

 「瑛?!って、呼び捨てなの?桐生ホールディングスの御曹司を」
 「それはまあ、幼馴染だもん」
 「たとえそうでも、御曹司を呼び捨てに出来るなんて、朱里くらいだよ。ご両親とも知り合いなんでしょ?」
 「うん、まあね」

 煮え切らない口調の朱里に、香澄はグッと顔を寄せる。

 「朱里さ、今はまだ余裕ぶってられるけど、いざ就職活動始まったら考え変わると思うよ。私の彼、大変だったもん。本命はおろか、第五希望くらいまであっという間に不採用でさ。どんどん追い詰められていって、もうそばで見てる私まで辛かったもん」

 香澄の彼は、大学のサークルで2つ上の先輩だった人で、この春から新社会人となった。

 香澄の言葉からも、その彼の就職活動がどんなに大変だったかは想像つく。

 だが、朱里はどうしても自分の就職と瑛を繋げて考えることは出来なかった。
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