幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 「うーん…、ストップ!」

 奏が弓を軽く振り、三人は一斉に動きを止めた。

 演奏会に向けてのカルテットの練習日。
 光一と奏がアレンジした二曲が完成し、早速合わせていた。

 光一アレンジの鉄道メドレーはとてもおもしろく、光一の車掌さながらのナレーションを聞きながら、楽しく演奏出来た。

 これはお客様にも喜ばれると皆は頷いたが、問題は奏アレンジのクラシック曲だった。

 奏が選んだのは、リストの『愛の夢』第3番。

 『愛の夢』はフランツ・リストが作曲した3曲からなるピアノ曲で、「3つの夜想曲」という副題を持っている。

 第3番はその中でも有名な一曲で、1845年、リストが34歳の時に作曲した歌曲「おお、愛しうる限り愛せ」が元になっている。

 どこまでも甘く美しいメロディで、朱里ももちろん大好きな曲だが、実際に弾きこなすのは今の朱里には難しかった。

 「朱里、同じ3つの音を単純にそのまま並べるな。一つ一つに表情をつけるんだ」
 「はい」

 朱里は頷くものの、なかなか音には表せない。

 「最初のアウフタクト、もっと響かせて入って。その一音、大事だぞ」
 「はい」

 奏の指導を受けながら、何度も朱里は出だしの部分をくり返す。

 「テンポを刻みすぎるな。もっとたっぷり間を取って」
 「はい」

 何度やっても上手くいかない。
 朱里は美園や光一に謝った。

 「ごめんなさい。私がつかめないばっかりに…」
 「気にするなって!朱里が弾きたいように弾けばいいからな」
 「そうよ、ちゃんと朱里に合わせるから。気にせずたっぷり歌って」
 「ありがとう」

 朱里は半分泣きそうになりながら頭を下げた。
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