幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 ある日の夜。
 実家に遊びに来ていた雅に誘われて、朱里は桐生家で夕食をご馳走になっていた。

 「朱里ちゃん。次回の演奏会のプログラムはもう決まったのかい?」

 瑛の父に尋ねられ、朱里は頷く。

 「はい、ほぼ決まりました。秋の演奏会で、時間も夕暮れ時なので、しっとりした曲も入れる予定です」
 「へえ、例えば?」
 「えっと、リストの『愛の夢』とか…」
 「おおー、それはいいね!楽しみだ」

 すると雅も身を乗り出す。

 「えー、ほんと?私、あの曲大好きなの。絶対聴きに行くからね、朱里ちゃん」
 「あ、はい…」

 (うう…、プレッシャーが…)

 朱里が思わず下を向いた時、瑛が口を開いた。

 「そんなに有名な曲なのか?それ」
 「ええ?瑛ったら、知らないの?」

 雅が呆れたようにため息をつく。

 「瑛、あなた少しは音楽にも詳しくないと、パーティーで会話に困るわよ」
 「そうだぞ、瑛。有名な曲くらいは教養として覚えておいた方がいい。朱里ちゃんに教わったらどうた?」

 両親がそう言った時、雅が付け加えた。

 「あ、でも瑛。『愛の夢』は下調べして聴いたりしないで」
 「は?なんで?」
 「あなたが最初にこの曲を聴くのは、朱里ちゃんの演奏にしなさい」

 ええー?と朱里は仰け反る。

 「そ、そんな!私の演奏が最初なんて、リストに叱られますから」
 「ううん、瑛は朱里ちゃんの演奏をまっさらな気持ちで聴くべきよ。ね?瑛。動画とか見たりしないでね」

 瑛は、雅の勢いに呑まれて頷く。

 「あ、まあ。うん、じゃあ」
 「ひえっ、本当に?あー、責任重大」

 朱里は思わず両手で頬を押さえた。
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