幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 「かんぱーい!」

 演奏会の盛会を祝い、四人は居酒屋でグラスを高く合わせた。

 「いやー、良かったよな、今日の演奏会も」
 「ええ、光一先輩の車掌さんもウケてたし。それになんと言っても!朱里のあの神がかった演奏!」

 美園に持ち上げられて、朱里は慌てて否定する。

 「美園ちゃん、そんな。神がかってなんかないってば」

 すると、いや、と光一が口を開く。

 「朱里、もの凄い集中力で入り込んでたぞ。特にあのカデンツァ!あんなの、一度も練習で弾いたことないフレーズだっただろ?音楽の神様が降りてきたみたいだった」
 「うんうん、ほんとですよね。私、鳥肌立ちましたよ。朱里、一体どういう心境だったの?あのカデンツァ」

 え、と朱里は戸惑う。

 「それがその、何も考えてなかったような…。とにかく気持ちが込み上げてきて…」
 「そうなんだー。私もそんな体験してみたいな」

 するとそれまで黙っていた奏が話し出した。

 「朱里。あの曲と向き合ってどうだった?今日の演奏で、何かをつかんで前に進めたんじゃないか?」

 朱里は少し考えてみる。

 「そうですね。ずっと心に抱えていた自分の気持ちや悩みを、全部音に乗せられた気がします。あの曲を弾くことで、自分を解放できたような気もして…。今はとても清々しい気分です」
 「そっか。良かったな」
 「はい。奏先輩、色々ありがとうございました」

 微笑み合う奏と朱里を見比べてから、美園が思い出したように言う。

 「そう言えば朱里、今日は終演後に桐生家の皆さんとお話しなくて良かったの?すぐに控え室に戻って来てたけど」
 「あ、うん。大丈夫よ」

 朱里はあれ以来ずっと瑛を避けていた。

 瑛にああ言われた以上、こちらから近づいて話しかける訳にはいかない。

 瑛の両親と雅にだけ軽く挨拶をして、朱里はすぐさま控え室に戻った。

 「次の演奏会の依頼も、また社長から直々にいただいたしな」
 「ええ。次はクリスマスコンサートですね!楽しみー」
 「クリスマスの曲、たくさん演奏しましょうよ!」
 「おう!あと、コスプレもな」

 光一のセリフに、皆はギョッとする。

 「コ、コスプレ?」
 「そうよ!クリスマスだからな。サンタとトナカイ、雪だるまとか?」

 そ、それはちょっと、と朱里と美園はたじろぐ。

 「ま!とにかく楽しいクリスマスコンサートにしようぜ!」

 奏がまとめ、皆は大きく頷いた。
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