幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 (なんだか眠れないな…)

 ベッドの上で朱里は寝返りを打つ。
 時計を見ると、深夜の1時だった。

 昼間、香澄に言われたことと、男性に呼び止められたことを思い出す。

 (そんなふうに見られるなんて…。なんだか悲しいな)

 桐生ホールディングスとは無関係の自分ですらそうなのだ。
 きっと瑛や雅は、もっともっとこんな気持ちを味わい続けてきたのだろう。

 (お姉さんが自動車メーカーの大企業の御曹司と結婚したのも、なんだか頷ける。感覚の違いと言うか、やっぱり何の気兼ねもなく話せる相手じゃないとね)

 自分は一般庶民で良かったな、とふと思う。皆と一緒なのが一番楽なのかもしれない。

 (いつか瑛も、家柄が釣り合うどこかのご令嬢と結婚するのかしら…。やだ!なんだか想像つかない)

 気品あふれる優雅な雰囲気のお嬢様と、その隣に並ぶ瑛を想像して、思わず朱里は苦笑いを浮かべる。

 (大丈夫なのかしら、瑛。なんて、人のこと心配してる場合じゃないわよね、私も)

 あれこれ考えているうちに目が冴えてしまった。

 朱里は身体を起こし、ベッドの横の窓を半分開けて外を眺める。

 (わあ、今日は満月なのね。綺麗…)

 するとその時、塀を隔てた桐生家の一番端の部屋の窓が、スッと音もなく開いた。

 「朱里さん」
 「菊川さん!」

 黒いTシャツ姿の菊川が窓から顔を出し、朱里は驚いて大きな声を上げてしまう。

 「あ、ごめんなさい」

 慌てて小声で謝る朱里に、菊川が笑いかける。

 「眠れませんか?」
 「え?あの、少し考え事をしていて…。もしかして、菊川さんのこと起こしちゃいましたか?」
 「いえ、とんでもない。まだ起きてましたから。それより朱里さん、眠れない程考え事を?」

 あ、いえ…と朱里は視線を落とす。

 「今日大学で、ちょっと考えさせられる事があって」

 菊川は窓の桟に両腕を置き、朱里に先を促すように頷いた。

 「桐生ホールディングスに就職したいと思っている男の人から声をかけられたんです。私と瑛が幼馴染だと聞いて、瑛を紹介して欲しいって。私が、友人でもないあなたを紹介出来ないと断ったら、それならまずは私とつき合いたいって。それって私と瑛を利用するってことでしょう?だからなんだか落ち込んでしまって。他の人にも、桐生ホールディングスの御曹司と幼馴染なんて羨ましいって思われてるみたいです、私…」

 少し間を置いてから、菊川がゆっくりと話し出す。
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