幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
 第二部は照明を落とし、壁際にキャンドルを並べた中で始まる。

 まずはカルテットの四人で『きよしこの夜』を演奏した。

 しっとりとした雰囲気と、客席から聴こえてくる綺麗な歌声に、朱里は思わずうっとりした。

 「それでは皆様、第二部は雰囲気を変えて、クリスマス・イブのお話を、音楽と共にお楽しみください。さあ、どんな物語が始まるのでしょうか」

 そう言って朱里が雅にアイコンタクトを送る。

 少し離れた所にいた雅が、客席の前に歩み出てお辞儀をすると、用意されたハイチェアに座った。

 隣に置いてある譜面台には『くるみ割り人形』と絵本の表紙のように書かれた大きな画用紙が置いてある。
 雅が作ってくれた手描きの絵本だ。

 ゆっくりと雅が語り出す。

 「これは、クリスマス・イブの物語。プレゼントを心待ちにしている女の子、クララの不思議なお話です。さあ、では早速始めましょう。『くるみ割り人形』の始まり、始まり」

 雅のセリフが終わったタイミングで素早く朱里が合図し、楽器を構えていた皆で一斉に演奏を始める。

 最初の曲は『小序曲』
 おもちゃのオーケストラのような可愛らしい曲だ。
 物語への期待をワクワクと高まらせるこの曲が終わると、雅が絵本をめくり、物語が始まる。

 「今日はクリスマス・イブ。クララの家にもたくさんのお客様が次々とやって来ました。ドロッセルマイヤーおじさんは、今年もクララにプレゼントを渡してくれます。
 『メリークリスマス!クララ。さあ、プレゼントだよ』
 『ありがとう!おじ様。これはなあに?』
 『くるみ割り人形だよ。固いくるみの殻をカリッと噛んで割ってくれるんだ』
 クララは初めて見る、ちょっと不格好なくるみ割り人形をひと目で気に入りました」

 ここで『行進曲』を演奏する。
 弾むようなメロディに、子ども達がうきうきとツリーの周りを踊っている姿が目に浮かぶ。

 雅の絵にもその情景が愛らしく描かれていた。

 曲が終わると、雅は絵をめくりながら語りを続ける。

 「クララが大事にくるみ割り人形を胸に抱いていると、兄のフランツにからかわれ、もみ合っているうちに人形を床に落として壊してしまいました。
 『大変!くるみ割り人形が、壊れちゃった!』
 クララの目から涙が溢れます。
 壊れたくるみ割り人形をハンカチでそっとくるみ、ツリーのそばに寝かせました。
 真夜中。くるみ割り人形が心配になったクララは、ベッドからそっと抜け出します。するとクララの体は小さくなり、ねずみ達に取り囲まれてしまいました。
 『どうしよう、だれか助けて!』
 そこへ、くるみ割り人形が他の人形を引き連れて助けに来てくれました。クララを守ってねずみ達と戦います。
 『あぶない!』
 クララも勇気を出して、くるみ割り人形に襲いかかろうとしたねずみの王様にスリッパをぶつけました。
 ねずみ達が退散していなくなると、くるみ割り人形は王子様の姿になりました。
 『ありがとう、クララ。私はねずみの魔法で人形に変えられていた、お菓子の国の王子です。お礼にあなたをお菓子の国に招待しましょう』
 王子はクララの手を取って、お菓子の国へといざないました」

 雅が絵本をめくりながら話を続ける。

 「最初に現れたのは金平糖の女王様。金平糖達がクララに踊りを見せてくれます」

 そして『金平糖の精の踊り』を演奏する。
 幻想的で可愛らしい一曲だ。

 続いては、アップテンポで力強い、ロシアの踊り『トレパーク』

 それからアラビアの『コーヒーの精の踊り』

 中国の『お茶の精の踊り』では、妖精が飛んだり跳ねたりする様子をピチカートで表す。

 フランスの『葦笛の踊り』
 そして最後は『花のワルツ』で華やかに優雅に締めくくる。

 「クララはベッドの中で目を覚ましました。そばにはあのくるみ割り人形が。クララは、素敵な夢を見せてくれたくるみ割り人形を大切に抱きしめました。おしまい」

 ゆっくりと雅が絵本を閉じ、客席から拍手が起こる。

 雅はお辞儀をして微笑み、朱里達を振り返る。

 促されて四人も立ち上がりお辞儀をした。
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