幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
第十五章 部長との仕事
 「CSR活動芸術部門の第一歩として、まずは一番身近な地元の楽団である、新東京フィルハーモニー交響楽団にコンタクトを取ろうかと考えています」

 年が明けて日常が戻って来たある日。
 朱里と瑛は、社長室でCSR推進部の方針を社長に報告していた。

 「依頼するのは、未来ハーモニーホールでの演奏会。キャパシティは2500席。お客様は全てご招待です。我が社の社員とご家族、株主の方々、そして交響楽団のご家族や関係者の方もお招きし、まずは当社と楽団の良い関係を築ければと。そして今後こういったCSR活動に力を入れていくことを、投資家の皆様にもアピールいたします」

 朱里が作成した資料に目を通していた社長が頷く。

 「分かった。費用については?」
 「はい、こちらに」

 すかさず瑛が資料を差し出した。

 金額の事については瑛に任せており、朱里は予算や費用もほとんど知らなかった。

 (きっと凄い金額なんだろうな。だって、あんなに大きなホールを貸し切って、プロのオーケストラを呼ぶんだもん。ゼロがいくつになるのか、見当もつかないよ)

 朱里が内心ヒヤヒヤしていると、社長はあっさり頷いた。

 「いいだろう。これで進めなさい」
 「はい!ありがとうございます」

 ホッとして、朱里は瑛と頭を下げる。

 「先方のオーケストラには、単に今回の演奏会の依頼だけでなく、将来的にCSR活動のパートナーとなり得るかどうかの話もしておいてくれ。反応が良さそうなら、私が具体的な話を進める」
 「はい、承知しました。それから、今回の未来ハーモニーホールでの演奏会は、プログラムやコンセプトについてはいかがいたしましょうか?」

 んー、そうだな、と社長は背もたれに身体を預けて宙を見る。

 「その点は朱里ちゃんに任せるよ。先方と相談して決めてくれればいい」
 「はい、かしこまりました」

 話が落ち着いたところで、朱里は瑛と社長室をあとにする。

 「えっと、部長。では早速新東京フィルにコンタクトを取ります」
 「分かった。あ、名刺が出来上がってきたからあとで渡す」
 「はい、ありがとうございます」

 廊下を歩きながら、二人は部長と部下の会話をする。

 変な感じがするかと思いきや、朱里は意外とこの話し方が気に入っていた。

 (普段の会話はもう出来ないけど、これなら仕事上の会話が出来るもんね)

 瑛、とはもう呼べないが、部長、なら気軽に呼べる。

 よく考えて見たら何だか変な話だなと、朱里は歩きながら小さくふふっと笑った。
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