Good day !
「お待ちかねのレディの登場よ」と言われ、大和と野中は顔を上げる。

ゆるやかなカーブを描いた階段を、ボルドーのドレスに身を包んだ恵真が下りてきた。

すっかり見違える程大人っぽい雰囲気の恵真に、思わず大和は息を呑む。

きれいなデコルテが露わになり、鎖骨や色白の滑らかな背中も色っぽい。

髪もアップにしてうなじを見せ、耳にはイヤリング、胸元にはネックレスが輝いている。

大和と野中の前に歩み出た恵真は、はにかんだ笑みを浮かべてうつむいている。

「おー!藤崎ちゃん。いいね!想像以上の変身ぶり。こんなにセクシーになるとは。なあ、佐倉」
「あ、ええ。はい。そうですね」
「おいおい、なにを照れてるんだ。ここは大人の男らしく、スマートにきれいだよって囁かなきゃ」

恵真はギョッとして慌てて止める。

「いえ、あの、野中さん。何もおっしゃらなくて結構ですから!なんならもう、私のことはお忘れください…」

小さくなってそう言うと、野中はすっと恵真の隣に来て左の肘を差し出した。

「こんなきれいなレディを放っておくような男は、全米のヤローどもに石を投げられる。さ、どうぞ」
「はい、ありがとうございます」

恵真はおずおずと右手を野中の左肘に添えた。

野中も大和も、光沢のあるシックなスーツに身を包んでおり、とてもダンディな雰囲気だと恵真は見とれる。

外に出ると、大きなリムジンが停まっていて恵真は驚いて目を見張った。

野中が手配していたらしく、気がつけばドレスやアクセサリー、靴やバッグなど全ての恵真の会計も済ませてくれていた。

あとでお支払いしますと頭を下げると、今の君の給料では無理だから機長になってからでいいよ、と冗談めかして笑う。

恵真は、あたふたするばかりだった。

まるでハリウッドスターのような気分を味わっていると、ゆっくりとリムジンは劇場のエントランスに到着した。

運転手が開けたドアからまず野中が降り、次いで大和が降りると、野中はくいっと顔を傾けて大和に促した。

大和は身をかがめて、リムジンの中の恵真に手を差し伸べる。

すみません、と頭を下げてから、恵真は大和の手を借りてリムジンを降りた。

そのまますっと恵真の手を自分の左肘に持ってきて、大和は野中の後ろを歩き出す。

恵真は左手でドレスをつまみながら、大和のエスコートで劇場に足を踏み入れた。
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