【SR】だるまさんが転んだ
俊介の口元から漂っていった煙は、少し離れた場所で立っている一人の少女へ向かっていった。


歳は八歳から十歳ほどだろうか。


この場に居る誰とも違う、淀みのない瞳。


俊介は、リュックからカメラを出してシャッターを押したい衝動を、巻き煙草を噛んで誤魔化した。


それを写真に収め、日本に帰って発表するなら、タイトルは脳内に浮かんだ言葉で良かった。


『内戦地に立つ、無垢な瞳』


その写真とフレーズだけで、日本にある幾つかの支援団体は、募金や物資援助の為に立ち上がるだろう。


それぐらい絵になる美少女だった。


恐らく、今まで切った事が無いであろう黒髪は、艶を放ちながら腰の下まで伸び、潤んだような大きな瞳と華奢な身体付きは、その趣味がある人間の目には堪らなく映るだろう。


だが、俊介にその趣味は元々無く、戦場写真を撮りに来た写真家でもない。


そう強く自分に言い聞かせ、カメラを取り出したい衝動を堪えていた。
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