【SR】だるまさんが転んだ
だからといって、巨悪を追えと言っているのではない。


そんなものを追っても、徒労に終わる事は俊介自身が一番分かっていた。


汗水垂らして必死に駆けずり回り、漸くネタを掴んで記事に出来たと思ったら、上に握り潰された事は一度や二度じゃない。


あの時のやるせなさや悔しさは、酒で忘れるしかなかった。


尤も、それを完全に忘れられていたら、今頃は綺麗さっぱり酒との縁も切れていただろう。


そうして燃料が足される事も無くなり、俊介の中で燻り続けていたものは真っ白な灰となっていったのだ。


自分より五つ年下の編集長がオフィスに戻ってきたのは、俊介がそんな事を思っていた時だった。


突然響いた大きな音にも、誰一人として驚く者は居ない。


編集長の原島が何かを話す前には、デスクを叩いて注目を集めようとする事を、皆知っているのだ。


「え〜と、誰か手の空いて居る者で、だるまさんが転んだを追いたいという奴は居ないか?」
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