Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
* * * *

 それにしても、なんでこんなにタイミング良く彼が現れたのだろう。宗吾の車に乗ってから急に不安になる。

 同棲していた彼のことを相談したのは知世だけだし、二人の間に関わりがあるとは思えない。だとしたら本当に偶然? それにもし関わりがあったとして、こんな不幸のどん底の私に会いに来る理由が見つからない。

 それから運転席の宗吾を横目で見てからため息をつく。簡単に彼の車に乗ってしまったけど、この選択は合っていたのだろうかーー。

「どこか店に入る? 俺の家が近いからそこでもいいけど」
「えっ、そ、それはちょっと……。だって友達とはいえ、普通は女が家に入るのを嫌がるものでしょ?」

 宗吾はしばらく前方を見つめたまま黙っていたが、ようやく六花の言おうとしていることを理解して笑い出す。

「あぁ、そういうことか。大丈夫。妻も恋人もいないから。なんならお前が酔い潰れても泊まれる客間もあるぞ」

 客間ですって? 思わず体がピクンと反応する。酔ったフリをして転がり込んじゃうのもアリかしら。それなら今晩の寝床は確保出来るわよねーーって、いやいや、再会したばかりの人の部屋にいきなり泊まるなんておかしいでしょ! 頭を横に振り、都合の良い解釈を頭から追い出す。

 百面相のようにコロコロと表情を変える六花に気付いた宗吾は、クスクス笑いながら車のスピードを上げた。

「決めた。お前の反応が面白いから家にしよう」
「えっ」
「安心しろって。襲ったりしないから」
「なっ……!」
「それともそれをご希望だったりする?」

 ニヤリと笑って舌舐めずりをした宗吾に対して、六花は恥ずかしさと怒りで頭に血が昇ってしまう。

「はぁっ⁈ んなわけないでしょ! い、いいわよ、あんたの家で! 家中のお酒を飲み尽くされたって知らないんだから!」
「臨む所だよ」

 再会してからずっと宗吾のペースで流されているような気がしてならなかったが、彼にからかわれていることか悔しくて、深く考える余裕はなかった。
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