Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
 でも愛のない結婚に意味があるのだろうかーー体だけの関係って虚しいだけじゃない?

 二人の視線が合うと、宗吾の顔がゆっくりと近付いてくる。

「どうする?」

 宗吾の指が六花の唇の上をなぞり、キスをされた途端にあっという間に彼の侵入を許してまう。舌を絡めあいながら夢中になってキスをしていると、スイッチが入ったかのように、六花は体が熱く溶けていくのを感じた。

 そのことに気付いたのか、宗吾は彼女の背中に腕を差し入れ、ソファへゆっくりと押し倒す。

 こんなに激しいキス、あの日以来かもしれない……六花はうっとりと目を閉じる。服の隙間から彼の長い指が滑り込んでくると、口からは小さな声が漏れ、その動きに反応するかのように体がうねる。

 あぁ、どうしよう……やっぱり貴島って上手なんだわ。こんなに気持ち良くなっちゃうの、あの日以来だもの……快楽に流され、堕ちていく。付き合っているわけじゃない。体だけでも良いと思わせるほどの感覚ーーもうずっと忘れていた。

 体の相性なんて、心の相性に比べればそれほど重要視していなかったのに、この快楽を知ってしまうとそうとは言い切れなくなってしまう。

 宗吾の指先が六花の中へとゆっくり挿入され、彼女が感じる部分をじっくりと攻め立てる。

「ここ……あの時も好きだったよな」

 反論しようとした六花の唇を塞ぐと、舌を絡めながら、息が絶え絶えになるほどの激しい愛撫を繰り返した。

「なぁ……名前呼んでよ」
「名前……? あっ……んっ……貴島……!」
「そうじゃなくて下の名前。疑似恋愛するんだし、名前で呼んだ方が感情も入りやすいと思う」
「……そんなもの?」
「あぁ、そんなものだよ。六花」

 急に名前を呼ばれたからドキッとした。確かにスイッチは入りやすいかもしれない。

「……宗吾……やっぱりちょっと恥ずかしい……んっ……」

 すると宗吾の動きが急に激しくなり、我を忘れるほどの快楽の波が徐々に押し寄せる。宗吾が六花の中へと身を沈めると、体が小刻みに震えるのがわかった。

「六花」

 あぁ、来た……宗吾から与えられる快感に心臓が早鐘のように打っていく。そして宗吾の全てを受け入れるように体の力が抜けていくのがわかる。

 なんて気持ちが良いのかしら……二人の体がピタリと重なり合う。それでも心の片隅にはアサカさんの存在を留めておいた。

 勘違いしちゃダメ……名前を呼ばれた瞬間、まるで愛されているかのように錯覚してしまった。でも彼が愛しているのは今もきっとアサカさん。だから疑似恋愛なんて提案をするのよ。

 アサカさんの代わりに抱かれるのはこれで二度目ね……それでも寂しかった心の隙間を埋めるのは十分だった。
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