Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
3 隠居〜私の宝物〜
波の音と赤ちゃんの小さな寝息だけが響く部屋の中で、六花は机に向かって集中していた。机の上には細めのワイヤー、テグス、たくさんのパールやビーズが並び、壁に立て掛けたデザイン画の通りに作業を進めていく。
その時に窓の外からノックをするような音がして、ハッと顔を上げる。小さな庭に面した縁側にある大きな窓の方へ歩いていくと、割烹着姿の祖母がにこにこしながら立っていた。
六花はパッと表情を輝かせ、ベビーベッドの中ですやすやと眠る我が子を確認してから、静かに窓を開けた。
「おばあちゃん! どうしたの?」
「ごめんね、まーちゃん、寝てる時間だったよね」
「ううん、大丈夫。それよりすごく良い匂いがする」
「そうでしょ? 実はぶり大根を作り過ぎたからお裾分けに来ちゃったの。良かったら食べて」
祖母から渡された紙袋には、保存容器に入ったぶり大根と炊き込みご飯がいっぱいに入っている。これだけあれば明日の夜まで食べられそうだった。
「うわぁ、嬉しい! ありがとう」
「じゃあ起こしちゃうと悪いから、また起きてる時にでも遊びにくるわ」
そう言い残すと、祖母は手を振りながら去っていった。
六花は窓を閉めてから、紙袋の中の香りを胸いっぱいに吸い込む。なんてホッとする匂いかしら……子供の頃から祖母が作る料理が大好きだった六花にとっては、ここのところ毎日がご馳走だった。
軋む床をなるべく音を立てないように歩いて、居間にあるちゃぶ台の上に紙袋をそっと置く。お腹が鳴りそうになるのをグッと堪えると、再び作業をしていた部屋へと戻った。
ベビーベッドを覗き込み、娘のはち切れんばかりの艶々な頬を指でそっとなぞる。小さな寝息ぐ可愛くて仕方ない。
六花にとって娘との時間は、何にも代え難い幸せな時間だった。
その時に窓の外からノックをするような音がして、ハッと顔を上げる。小さな庭に面した縁側にある大きな窓の方へ歩いていくと、割烹着姿の祖母がにこにこしながら立っていた。
六花はパッと表情を輝かせ、ベビーベッドの中ですやすやと眠る我が子を確認してから、静かに窓を開けた。
「おばあちゃん! どうしたの?」
「ごめんね、まーちゃん、寝てる時間だったよね」
「ううん、大丈夫。それよりすごく良い匂いがする」
「そうでしょ? 実はぶり大根を作り過ぎたからお裾分けに来ちゃったの。良かったら食べて」
祖母から渡された紙袋には、保存容器に入ったぶり大根と炊き込みご飯がいっぱいに入っている。これだけあれば明日の夜まで食べられそうだった。
「うわぁ、嬉しい! ありがとう」
「じゃあ起こしちゃうと悪いから、また起きてる時にでも遊びにくるわ」
そう言い残すと、祖母は手を振りながら去っていった。
六花は窓を閉めてから、紙袋の中の香りを胸いっぱいに吸い込む。なんてホッとする匂いかしら……子供の頃から祖母が作る料理が大好きだった六花にとっては、ここのところ毎日がご馳走だった。
軋む床をなるべく音を立てないように歩いて、居間にあるちゃぶ台の上に紙袋をそっと置く。お腹が鳴りそうになるのをグッと堪えると、再び作業をしていた部屋へと戻った。
ベビーベッドを覗き込み、娘のはち切れんばかりの艶々な頬を指でそっとなぞる。小さな寝息ぐ可愛くて仕方ない。
六花にとって娘との時間は、何にも代え難い幸せな時間だった。