Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
* * * *

 豪華なホテルの(きら)びやかな雰囲気の中に身を置くのは久しぶりだった。誰もいない空間に慣れてしまった六花にとって、人混みは歩き辛く息が詰まる。

 しかもドレスコードの決まった立食パーティーのためほぼ二年振りにヒールを履いたが、すでに足は棒のようになっていた。

 こんなのよく履いてたわよね……スニーカーの楽さを知ってしまうと、もうこちら側には戻れないと感じてしまう。

 その中で翔と萌音を見つけると、ホッと息を吐いて二人のそばへと駆け寄った。すると六花の姿を見つけた翔と萌音が笑顔を向ける。

「すごく大きなパーティーですね」
「父親が手広く事業に手を出してるからね。でもこの中でもう一度会うような人はほとんどいないと思うし、阿坂さんは萌音と一緒にご飯とお酒を楽しんでいて大丈夫だよ」

 確かに今回だけと決めて来ているわけだし、たった一度なら楽しまないのは損かもしれない。

 六花の鼻を食べ物の良い香りがかすめ、お腹から小さな呻き声が響いた。高級ホテルのビュッフェ、昔はよく友達と行ったっけ……。

「うんうん、今日はお互いチビちゃんがお留守番ですし、せっかくだからいっぱい食べましょう!」

 萌音の言葉を聞いて、六花はくすくすと笑い出す。

「そうですね。子どもがいると食べた気になれないから、今日はチャンスですよね!」

 二人は頷き合うと、翔を残して楽しそうに料理を取りに行った。

◇ ◇ ◇ ◇

 翔はわざと隠れるように観葉植物の裏に身を潜めている人物を目に留めると、プッと吹き出した。きっと隠れるつもりなんだろうな……笑いを押し殺しながら近寄っていく。

「あとは君次第だよ」

 しかしその姿にいつもの張り合いはなく、緊張して気落ちしているようにも感じた。

「あんなに《《犬猿の仲》》だったのに、何があるかわからないものだね」

 翔がクスクス笑うと、男性は恥ずかしそうに顔を赤らめてそっぽを向く。

 翔は萌音と六花が戻ってくる様子を確認すると、励ますように男性の肩を叩いた。
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