Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
* * * *
料理を載せた皿を持ち、六花と萌音は翔がいた場所へと戻ろうとしていた。しかしそこに彼はおらず、少し離れた場所の壁際に置いてあった観葉植物の陰で誰かと話しているのが見える。
二人に気付いた翔が手招きをしたので、萌音と六花は顔を見合わせてから、彼の元へとゆっくり歩いていく。
距離が近付くにつれ、翔が話をしている相手の顔の輪郭がはっきりしていく。それとともに六花の心臓が徐々に早く打ち始めた。
まさかーー六花はゴクリと唾を飲み込む。
背が高くて柔らかな黒髪、そしてクールな印象を与える切れ長の瞳と、甘さも感じさせる端正な顔立ち。それが誰なのか、六花ははっきりとわかった。
胸に押し寄せる懐かしさと、締め付けられるような息苦しさ。そして嬉しさと後ろめたさの狭間で生まれる複雑な感情を処理出来ずにいた。
何も知らない翔は男性の肩に手を置くと、笑顔で六花に紹介する。
「阿坂さん、彼が誰だかわかる? 昔とだいぶ印象が変わってるんだけど」
翔が言う昔とは大学の頃のことだろう。しかし六花は疑似恋愛を提案された頃の宗吾が頭に浮かび、変わらない姿に胸が苦しくなる。でもそんなことを悟られるわけにはいかない。深呼吸をすると、にこやかに微笑んだ。
「もちろんわかりますよ。貴島くんですよね? あんなに犬猿の仲だったのに、忘れるわけがないじゃないですか」
宗吾は驚いたように目を見開き六花を見つめる。眉間に皺を寄せ、何か言いたげな彼の瞳から顔を背ける。お願いだからそんな目で見ないでよ……どうしていいのかわからなくなるじゃない。
「あっ、飲み物を持ってくるのを忘れちゃった。じゃあちょっと失礼しますね」
なんとか言い訳を見つけてその場を離れようとするが、
「あぁ、俺もちょうど飲み物が欲しいと思ってたんだ。一緒に行こう」
とついてこようとしたため、六花は慌てふためく。
「えっ、ちょっと! ほら、まだ先輩と話してたら? 積もる話もあるでしょ?」
翔と萌音に助けを求めようとしたが、二人は申し訳なさそうに両手を合わせると、前方の舞台を指差した。
「あぁ、ごめんね! これから社長挨拶があるから、僕と萌音は登壇しないといけないんだ。阿坂さんも積もる話があるだろうし、しばらく二人で話したらどうだい? じゃあまた後でね」
「先輩⁈ 萌音さん⁈」
頼みの綱である二人がいなくなり、急に不安になった六花の肩を宗吾がガシッと掴んだ。
「久しぶりだな、六花」
「そ、そうね。でも私には積もる話はないから」
「お前はな。でも俺にはあるんだよ、それはもうたっぷりと」
振り返るのが怖いくらいの殺気を背中に感じる。あんな手紙だけで家を出たんだもの。怒ってるわよね、きっと。でもそうするしかなかったんだもの。
料理を載せた皿を持ち、六花と萌音は翔がいた場所へと戻ろうとしていた。しかしそこに彼はおらず、少し離れた場所の壁際に置いてあった観葉植物の陰で誰かと話しているのが見える。
二人に気付いた翔が手招きをしたので、萌音と六花は顔を見合わせてから、彼の元へとゆっくり歩いていく。
距離が近付くにつれ、翔が話をしている相手の顔の輪郭がはっきりしていく。それとともに六花の心臓が徐々に早く打ち始めた。
まさかーー六花はゴクリと唾を飲み込む。
背が高くて柔らかな黒髪、そしてクールな印象を与える切れ長の瞳と、甘さも感じさせる端正な顔立ち。それが誰なのか、六花ははっきりとわかった。
胸に押し寄せる懐かしさと、締め付けられるような息苦しさ。そして嬉しさと後ろめたさの狭間で生まれる複雑な感情を処理出来ずにいた。
何も知らない翔は男性の肩に手を置くと、笑顔で六花に紹介する。
「阿坂さん、彼が誰だかわかる? 昔とだいぶ印象が変わってるんだけど」
翔が言う昔とは大学の頃のことだろう。しかし六花は疑似恋愛を提案された頃の宗吾が頭に浮かび、変わらない姿に胸が苦しくなる。でもそんなことを悟られるわけにはいかない。深呼吸をすると、にこやかに微笑んだ。
「もちろんわかりますよ。貴島くんですよね? あんなに犬猿の仲だったのに、忘れるわけがないじゃないですか」
宗吾は驚いたように目を見開き六花を見つめる。眉間に皺を寄せ、何か言いたげな彼の瞳から顔を背ける。お願いだからそんな目で見ないでよ……どうしていいのかわからなくなるじゃない。
「あっ、飲み物を持ってくるのを忘れちゃった。じゃあちょっと失礼しますね」
なんとか言い訳を見つけてその場を離れようとするが、
「あぁ、俺もちょうど飲み物が欲しいと思ってたんだ。一緒に行こう」
とついてこようとしたため、六花は慌てふためく。
「えっ、ちょっと! ほら、まだ先輩と話してたら? 積もる話もあるでしょ?」
翔と萌音に助けを求めようとしたが、二人は申し訳なさそうに両手を合わせると、前方の舞台を指差した。
「あぁ、ごめんね! これから社長挨拶があるから、僕と萌音は登壇しないといけないんだ。阿坂さんも積もる話があるだろうし、しばらく二人で話したらどうだい? じゃあまた後でね」
「先輩⁈ 萌音さん⁈」
頼みの綱である二人がいなくなり、急に不安になった六花の肩を宗吾がガシッと掴んだ。
「久しぶりだな、六花」
「そ、そうね。でも私には積もる話はないから」
「お前はな。でも俺にはあるんだよ、それはもうたっぷりと」
振り返るのが怖いくらいの殺気を背中に感じる。あんな手紙だけで家を出たんだもの。怒ってるわよね、きっと。でもそうするしかなかったんだもの。