Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
5 同行〜残された一週間〜
 エレベーターに乗り込むと、宗吾が五階のボタンを押したので、六花は驚いたように目を見開いた。

「あなたの家に行くんじゃないの?」
「日本に帰ってきたばかりで、今は家はないんだ。今日のパーティーに出る予定だったし、ここのホテルならちょうどいいかと思って」

 しばらくの沈黙が流れ、お互いに緊張感が漂う。さっきまであんなに言い合っていたのに、変な感じ……六花は壁に寄りかかり、宗吾の背中を見つめる。

 掴まれた腕は依然として離してもらえない。むしろ力が強まっているような気すらした。

「ねぇ、どうして今なの?」
「えっ?」
「だって帰国したばかりで家もないなら、私とのことより家探しを優先したら? 落ち着いてからだっていいじゃない」
「……そうしたらお前はまたいなくなるだろ?」

 ドキッとした。確かに今だって早く家に帰りたいと思っているし、出来ることなら無条件で婚姻届を返して欲しい。

 エレベーターが止まり、二人は扉の外に出る。宗吾の後に続いて歩き、五〇一号室の前で立ち止まると、宗吾はカードキーをかざして扉を押し開ける。

 中はベッドが二台置かれたツインルームで、思ったよりも広くないことに六花は驚いた。一人暮らしの時は客間があるくらいだったし、高層階だった。

 部屋に入るのを躊躇っていると、宗吾は六花の手を引いて中へ招き入れる。その勢いのまま彼女を壁に押し付けるとニヤッと笑う。

「何? もしかして何かされるとでも思ってる?」
「ち、違うわよ! なんかいろいろあなたらしくない気がしたから警戒しただけ!」
「俺らしくないって何が?」
「ツインルームだし、低層階だし」

 宗吾は口を閉ざすと、視線を逸らして宙を見始める。そういえば大学生の頃もこういうことがあったっけ。仲良くなってからの宗吾は何か考えている時にこういう仕草が見られた。きっと社長子息として、こうした言動が求められているのかもしれない。

 でも六花はイライラをぶつけるしか出来なかった昔の宗吾のように、ストレートに話してくれたらとも思う。だってあれが本来の彼だと思うから。

 優しさの裏に、本当の自分を隠してしまっているような気がしてならなかった。
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