Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
* * * *
なんだろう……体が動かない。まるで羽交い締めにされているかのようなーーゆっくりと目を開けた六花は、寝ぼけ眼のまま後ろを振り返る。するとそこには安らかに眠る宗吾の顔があったため、驚きのあまり息をするのを忘れてしまった。
ん? ちょっと待って。どうして宗吾が同じベッドにいるの? それに私のことを抱きしめてるし、一体何がどうなっているの⁈
思考が追いつかず、頭を抱えた六花は、宗吾の手が不自然に胸元を彷徨っていることに気付く。
「……起きてるんでしょ?」
「当たり。おはよう」
「……おはようじゃなくて、一体どうしてこうなったのか説明してくれる?」
宗吾の手をどかそうと力の限り抵抗してみるが、彼の力の方が強くて無理だった。
「これは六花が逃げないようにという、俺なりの対策」
「どれだけ信用ないのよ……」
「そりゃあ前科があるからね」
「でも今日は逃げてないでしょ? そろそろ離してくれない?」
諦めたように静かになった六花を、どこか名残惜しそうに解放する。ゆっくり寝返りを打って宗吾の方を向いたが、既にベッドから降りて洗面台のある浴室へ行ってしまった。
今の言葉、宗吾はどんな顔で言ったのかしら……それがわかれば、彼の真意も掴めたのではないだろうか。
布団の中には二人分の温もりが残っていて、一人残されると、少しだけ空いたスペースが切なく感じる。
最近は娘と一緒に寝る事も増えていたし、寂しさを感じることはなかった。ただ、こうやって誰かに抱きしめられる感触は久しぶりで、不思議な安心感に包まれた。
子どもを産んでから変わったのは、自分一人で子どもを守らなければという使命感。もし自分に何かあったら、この子はどうなるのだろうという恐怖心が芽生えた。明日私が目を覚まさなかったら……そう考えるだけで不安になる。だからといって弱気になることは出来ず、常に気を張って生活をしていた。
守るべきものがいることは強みにも弱みにもなるのだと、親になってから知った。
宗吾に再会した時は心が弱っていて、自棄になっていた部分もある。だから彼の出した提案に乗れたのだ。あの頃は自分のためだけに生きていたから。
今はもう昔とは違うのに、宗吾が差し出した手を取りたくなる自分もいる。優しい宗吾を知っているからこそ、彼という人間に甘えたくなるのかもしれない。
擬似恋愛と契約結婚。なんて嫌な言葉かしら……この言葉さえなければ、もう少し素直になれるかもしれないのにーー。
なんだろう……体が動かない。まるで羽交い締めにされているかのようなーーゆっくりと目を開けた六花は、寝ぼけ眼のまま後ろを振り返る。するとそこには安らかに眠る宗吾の顔があったため、驚きのあまり息をするのを忘れてしまった。
ん? ちょっと待って。どうして宗吾が同じベッドにいるの? それに私のことを抱きしめてるし、一体何がどうなっているの⁈
思考が追いつかず、頭を抱えた六花は、宗吾の手が不自然に胸元を彷徨っていることに気付く。
「……起きてるんでしょ?」
「当たり。おはよう」
「……おはようじゃなくて、一体どうしてこうなったのか説明してくれる?」
宗吾の手をどかそうと力の限り抵抗してみるが、彼の力の方が強くて無理だった。
「これは六花が逃げないようにという、俺なりの対策」
「どれだけ信用ないのよ……」
「そりゃあ前科があるからね」
「でも今日は逃げてないでしょ? そろそろ離してくれない?」
諦めたように静かになった六花を、どこか名残惜しそうに解放する。ゆっくり寝返りを打って宗吾の方を向いたが、既にベッドから降りて洗面台のある浴室へ行ってしまった。
今の言葉、宗吾はどんな顔で言ったのかしら……それがわかれば、彼の真意も掴めたのではないだろうか。
布団の中には二人分の温もりが残っていて、一人残されると、少しだけ空いたスペースが切なく感じる。
最近は娘と一緒に寝る事も増えていたし、寂しさを感じることはなかった。ただ、こうやって誰かに抱きしめられる感触は久しぶりで、不思議な安心感に包まれた。
子どもを産んでから変わったのは、自分一人で子どもを守らなければという使命感。もし自分に何かあったら、この子はどうなるのだろうという恐怖心が芽生えた。明日私が目を覚まさなかったら……そう考えるだけで不安になる。だからといって弱気になることは出来ず、常に気を張って生活をしていた。
守るべきものがいることは強みにも弱みにもなるのだと、親になってから知った。
宗吾に再会した時は心が弱っていて、自棄になっていた部分もある。だから彼の出した提案に乗れたのだ。あの頃は自分のためだけに生きていたから。
今はもう昔とは違うのに、宗吾が差し出した手を取りたくなる自分もいる。優しい宗吾を知っているからこそ、彼という人間に甘えたくなるのかもしれない。
擬似恋愛と契約結婚。なんて嫌な言葉かしら……この言葉さえなければ、もう少し素直になれるかもしれないのにーー。