Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
 ワインのサークルだし、やはりワイナリーに行きたいという話になり、女子たちが行ってみたいと前々から話していたワイナリー直営のホテルに決まった。

 宗吾の運転する車の中はお喋りと音楽で賑わい、現地に着く頃には疲れて寝てしまうメンバーもいたくらいだった。

 楽しみにしていたワイナリーの見学、ホテルでの美味しい食事と飲み放題のワイン。部屋は男女で分かれて泊まったが、皆あっという間に寝入ってしまった。

「あの時は楽しかったな」

 宗吾はポツリと呟いたので、六花は運転する彼の方に視線を向ける。その視線に気付いたのか、宗吾は問いかけるように六花の方を見た。

「どうかしたか?」
「えっ、ううん、なんでもない! 楽しかったなって思っただけ」

 そう言いながら慌てて窓の外に視線を移す。突然頭に蘇った記憶のことを口には出せず、六花は黙り込んだ。

 今思い出したって恥ずかしい。あの日酔っ払った私は急に彼を連れてテラスに出ると、キスをせがんだらしいーーと宗吾本人から聞いた。

 私の頭に宗吾を連れ出した時の記憶はないけど、キスの感触だけはしっかりと覚えていた。貪るようにお互いを求めるようにキスを繰り返し、私はいつの間にか眠ってしまい、目が覚めたら自分の部屋にいたのだ。

 眠ってしまってから部屋に戻るまでの間に何があったかはわからない。宗吾は部屋に連れて行って寝かせただけと言っていたけどーー。

 とはいえどうしてそんなことをしてしまったのか未だに謎で、同じようなことがないよう、あの日以降飲み過ぎには気をつけていた。

「六花」
「は、はいっ⁈」

 六花が変な声を出したものだから、宗吾は少し驚いた目で彼女を見る。それから口元に小さな笑みを浮かべると、再び前方に視線を移動させる。

 まさか私がそのことを思い出したなんて思ってないわよね……心臓が早鐘のように打ち付ける。

「いや、せっかくだし次のサービスエリアに寄って行こうか」

 次のサービスエリアは最近オープンしたばかりで、お土産売り場や展望テラスなどがオススメだとテレビでやっていたのを思い出し、六花の心は浮き足立つ。

「あっ、行きたいかも!」
「了解」

 こんなやりとりを続けていると、やはり彼の隣の居心地の良さを思い出してしまう。笑わせてくれるし、私の希望だって結構な割合で聞いてくれるし。宗吾は恋人としては素晴らしい人間だと思う。

 でも夫や父親としてはどうなのだろう。もしちゃんと親子として過ごしていたら、どんなふうに娘と接するのかしらーー未知数だからこそ見てみたいと思った。

 車はサービスエリア方面へと車線を変える。広々とした駐車場に車を停めると、二人は車から降りた。
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