Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
6 同室〜二日目〜
 宿に着くまでの間、六花の頭は先ほどまでの熱いキスのことでいっぱいだった。頬が熱くなり、宗吾に見られたくなくて窓の外に目を向ける。

 あんなに激しいキスをされたら、愛されてるんじゃないかと勘違いしてしまう。それがもし事実ならいいのに……彼に愛されているのならば、娘のことも素直に話せる気がした。

 私とのキスだけであんなに硬くなっちゃうんだもの。相当欲求不満だったに違いない。でもそれは私も同じか……宗吾のキスだけでこんなにも体が熱くなってしまったんだから。

 そして宗吾の硬くなったモノを想像して、心臓のドキドキが止まらなくなる。人のこと言えないーー私だって欲求不満みたい。

 車は徐々に宿に近付いている。あんなキスの後だもの、何があってもおかしくない。それに……絶対に同室よね。

 二人きりになったら……? 頭に浮かぶのは宗吾の鍛え抜かれた裸体と、キスをした時に感じた高揚感。

 もし押し倒されたりしたら? あんなにセクシーなんだもの。キスだけで腰が砕けてしまった私に、彼を拒む自信なんてなくなってしまった。

 私が誘わなければしないと言ったけど、それは本当だろうか……。それが安心材料にも、物足りなさにも感じる。

 一体どうしたいのかしら……そう考えるほど、六花には一つの答えが見えていた。彼を受け入れたいのも、受け入れたくないのも、どちらも同じ感情だったからーー。

 私から誘わなければしない、それが約束。それは私にこの感情の正体を認めろと言っているようなものよね。

「ここから十五分くらいだから」
「うん、わかった」

 突然言われたものだから、つい声がうわずってしまう。

 辺りが徐々に暗くなり始めた。車はゆっくりと車線変更をして、高速道路の出口に向かう。

 温泉街の看板が見えてくると、通りを走る車や人の往来が多くなってきた。窓からはたくさんの温泉宿が見え、六花は視線をキョロキョロさせる。

 しかし車は温泉街を抜け、更に奥へと進んでいく。

「あれ? ここじゃないの?」
「今日泊まるところはもう少し先なんだ」

 宗吾の言葉に納得するように頷くが、何も目印のない木々の中を進んでいくのは、少しだけ不安になった。

「あそこだ」

 すると前方に明かりが見え始め、『花里』と書かれた立派な木の看板を照らしていた。だが車が通るための入口しか見当たらず、建物は更に奥の方にあるように見受けられる。

 車は暗闇の中に吸い込まれるように進んでいった。
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