Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
* * * *
六花が想像していたのは、宴会場や大浴場があるようなごく普通の旅館だった。宗吾に見せられた写真は外観だけだったし、勝手にそう思い込んでいた節もある。
だから宗吾が受付を済ませた後に、部屋に行くのかと思えば何故か屋外へと案内され、日本庭園の脇の石畳の小道を歩いていく。その先に現れたのは竹壁に囲まれた一軒家のような建物だった。
先頭を歩いてた宿の女性が門扉を開けて中に入り、玄関土間に二人の荷物を置くと、頭を下げて外に出る。
何事もないかのように、靴を脱いで部屋の中へ入ろうとする宗吾の腕を慌てて掴んだ。
「ここって、もしかして……」
「そう、離れ。ここしか空いてなかったからさ。しかも専用の露天風呂もついてるし、ここならずっと二人きりになれる」
ずっと二人きりーーその言葉を聞いて、六花は動けなくなる。わかっていたはずなのに、いざとなると不安になってしまう。
宗吾は壁に寄りかかり、六花を見つめる。
「どうした? いきなり二人きりで怖くなった?」
「別に怖いわけじゃないけど……」
「でも六花は何も起こらない自信があるんだろ? それなら素直に温泉と食事を楽しんでゆっくり過ごせばいい」
「まぁそうなんだけど……」
「それとも六花は自信がないとか?」
「……そんなことないわ」
言葉とは裏腹に、思わず声が小さくなる。こんなに気持ちが揺らいでいるのに、どうしたら自信なんか持てるのだろう。
「じゃあいいじゃないか。ほら、おいで」
宗吾が差し出した手を、戸惑いながら取ってしまう。その時に彼が見せた笑顔にドキッとする。
やっぱり親子よね……まーちゃんの笑顔に似てるーー娘と重なる部分を見つけて切なくなる。娘との暮らしを大切にしたくて、この一週間を乗り切ろうとした。それなのに、今は贅沢なことを望み始めてる。
宗吾の気持ちが私に向いてくれたらいいのに……。そして娘のことも愛してくれたらどんなに幸せだろう。
そうよ、認める。私は宗吾が好きなんだ。ずっと忘れられずにいた。だからこそ彼に会えなかったーー。愛しているから拒絶されるのが怖くて逃げ出した。
宗吾との子どもだからこそ、大事にしたかったし愛したかった。彼の愛が手に入らなくても、彼との間に出来た命を守りたかった。それで良かったのに、宗吾と再会したことで、諦めたはずの想いが再燃してしまったのだ。
でもこの一週間の先にあるのは名前ばかりの結婚か、または娘と二人での穏やかな生活のどちらかしかない。
それならば彼と恋人のように過ごせる残りわずかな時間を、感情の赴くまま、欲望に従って過ごしてもいいのかもしれない。
これが最後になるのならばーー。
六花が想像していたのは、宴会場や大浴場があるようなごく普通の旅館だった。宗吾に見せられた写真は外観だけだったし、勝手にそう思い込んでいた節もある。
だから宗吾が受付を済ませた後に、部屋に行くのかと思えば何故か屋外へと案内され、日本庭園の脇の石畳の小道を歩いていく。その先に現れたのは竹壁に囲まれた一軒家のような建物だった。
先頭を歩いてた宿の女性が門扉を開けて中に入り、玄関土間に二人の荷物を置くと、頭を下げて外に出る。
何事もないかのように、靴を脱いで部屋の中へ入ろうとする宗吾の腕を慌てて掴んだ。
「ここって、もしかして……」
「そう、離れ。ここしか空いてなかったからさ。しかも専用の露天風呂もついてるし、ここならずっと二人きりになれる」
ずっと二人きりーーその言葉を聞いて、六花は動けなくなる。わかっていたはずなのに、いざとなると不安になってしまう。
宗吾は壁に寄りかかり、六花を見つめる。
「どうした? いきなり二人きりで怖くなった?」
「別に怖いわけじゃないけど……」
「でも六花は何も起こらない自信があるんだろ? それなら素直に温泉と食事を楽しんでゆっくり過ごせばいい」
「まぁそうなんだけど……」
「それとも六花は自信がないとか?」
「……そんなことないわ」
言葉とは裏腹に、思わず声が小さくなる。こんなに気持ちが揺らいでいるのに、どうしたら自信なんか持てるのだろう。
「じゃあいいじゃないか。ほら、おいで」
宗吾が差し出した手を、戸惑いながら取ってしまう。その時に彼が見せた笑顔にドキッとする。
やっぱり親子よね……まーちゃんの笑顔に似てるーー娘と重なる部分を見つけて切なくなる。娘との暮らしを大切にしたくて、この一週間を乗り切ろうとした。それなのに、今は贅沢なことを望み始めてる。
宗吾の気持ちが私に向いてくれたらいいのに……。そして娘のことも愛してくれたらどんなに幸せだろう。
そうよ、認める。私は宗吾が好きなんだ。ずっと忘れられずにいた。だからこそ彼に会えなかったーー。愛しているから拒絶されるのが怖くて逃げ出した。
宗吾との子どもだからこそ、大事にしたかったし愛したかった。彼の愛が手に入らなくても、彼との間に出来た命を守りたかった。それで良かったのに、宗吾と再会したことで、諦めたはずの想いが再燃してしまったのだ。
でもこの一週間の先にあるのは名前ばかりの結婚か、または娘と二人での穏やかな生活のどちらかしかない。
それならば彼と恋人のように過ごせる残りわずかな時間を、感情の赴くまま、欲望に従って過ごしてもいいのかもしれない。
これが最後になるのならばーー。