Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
* * * *

 少し休憩をしてから、浴衣に着替えてダイニングに向かう。それぞれが個室になっており、案内された部屋はほんのりと薄暗く、テーブルには蝋燭の明かりが揺らめいている。

 すごく贅沢な時間ーー自分だけがこんな贅沢をしても良いのだろうか。気が引けるのは娘が気になるからかもしれない。

 まーちゃんはちゃんとご飯を食べたかしら……丸一日会えないとやはり不安と寂しさが押し寄せる。これがあと六日も続くなんて耐えられるだろうか。

 とはいえ、こんなふうにちゃんと味わって食べるゆっくり食事をするのはいつ以来だろう。ホッと気持ちが穏やかになると共に、今の状況に落胆を隠せなかった。

 先ほどより口数が減った六花を気にしているのか、宗吾は眉間に皺を寄せながら食べ物を口に運んでいる。

 何を考えてるのかしら? アサカさんの時もそうだったけど、宗吾は虚勢を張る癖があるのよね。素直に言いたいことを言えばいいのに……私のことを意地っ張りって言ったけど、宗吾は強がりばかり。ただそれが可愛かったりするんだけどーー宗吾の顔を見た六花はつい笑ってしまった。

「なんだよ」
「別に。言いたいことがあるなら言えばいいのにって思っただけ」

 すると宗吾は俯きがちに口を開く。

「さっきはごめん……あの……体は大丈夫か?」

 珍しく弱気な宗吾の様子に六花は驚いた。あんなに私を誘惑するとか息巻いていたくせに、今度は謝るの?

「まぁ久しぶりだったし、確かに腰はガクガクよ」
「だよな……俺も久しぶり過ぎて加減が出来なくて、六花に無理させた気がしてた」
「……久しぶり? 宗吾なんて相手に困らないでしょ? あなたと付き合いたい女性は山ほどいそうだもの」

 見た目だって悪くないし、ノリもいいし、何より社長子息だ。六花自身も彼より魅力的な男性に出会ったことはなかった。

「言っただろ? 俺は六花がいいって。六花じゃないなら、俺には意味がないんだ」

 六花は困ったように笑うと、シャンパンを一口含んだ。
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