Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
* * * *

 少し重たい空気の中、二人は部屋へと戻る。それでも宗吾は六花の手を離そうとはしなかった。

 扉を開けて部屋に入ると、ようやく手が解けて自由になるが、先ほどまでと明らかに違う宗吾の様子が気になって仕方なかった。

「もう疲れただろ? 今日はゆっくり休んで」

 背を向けたままそんなことを言うから、六花の胸は苦しくなった。そうさせたのは自分だとわかっていたから、居ても立っても居られなくなる。

 先に居間に入った宗吾の後を追い、彼の腕を掴んだ。宗吾は体をビクッと震わせてから、驚いたように振り返る。

「六花?」
「言いたいことがあるなら言ってよ。ちゃんと聞くから。二人きりなのに、こんな空気になるのは嫌」
「……別にないよ」
「嘘つき。私知ってるんだから。宗吾が言葉に詰まる時は、何かを隠そうとしてるってこと。犬猿の仲だった頃の方が、まだ宗吾の本心に触れてる気がしてた。今は正直言って、宗吾が何をしたいのかわからないのよ……」
「俺はただ……六花の気持ちが知りたいだけだよ。俺と結婚することをどう思っているのか」
「はっきり言って、頭はごちゃごちゃしてるの。契約結婚なんて虚しいだけじゃない。だから受け入れるつもりなんてなかったのに……自分が決意の弱い優柔不断だってことを改めて認識した」
「それってどういう意味?」

 六花は口を硬く結ぶ。これだと私が宗吾のことが好きなんだと受け取られかねない。それだけは避けたかった。

「じゃあ聞くけど、さっきのは性欲に流されただけ? それとも……」
「それは……わ、わかんない」
「何でも聞くって言ったじゃないか」
「だから聞いたでしょ! もう疲れたから寝る!」

 しかしベッドのそばまで行ってから、六花はあることに気付いて絶句する。激しく乱れたベッドは、寝ることが困難なほどびしょ濡れだったのだ。

 あぁ、そうか。さっき露天風呂から濡れたままベッドに転がり込んじゃったから……一連の流れを思い出し、六花は恥ずかしくて顔を真っ赤に染めた。

 同じようにベッドの惨状に気付いた宗吾も言葉をなくす。シーツを交換してもらうことも考えたが、それは更に恥ずかしかった。

「あんなことをした後にこんなことを言うのもアレなんだけど……今日も一緒に寝るしかないかな」
「……寝るだけだからね」
「わかってるって」

 寝支度をしてから六花が先にベッドに横になると、宗吾は昨夜のように背後から布団に入ってくる。そして同じく背中から抱きしめられる。鼓動が少し早まるのに、安心感に包まれた。

 わだかまりはまだ残っているものの、二人は静かに眠りについた。
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