Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
◇ ◇ ◇ ◇

 腕の中で六花が寝返りを打ったので、宗吾は目を覚ました。彼の胸に顔を埋めてすやすやと眠る六花の額に口づけ、そっと抱きしめる。そしてホッとしたように微笑んだ。

 体の温かさも、くすぐったいような寝息も、六花がそばにいることを実感出来た。

 彼女の髪を撫でながら、どうしようもない愛おしさで胸が苦しくなる。一週間しかないという気持ちが宗吾を焦らせ、何をしようにも性急になっていた。

 どうにかして彼女の本当の気持ちを聞き出したい、俺のことをどう思っているのか知りたいーーそう思うのに、確信に迫ることが出来ず、遠回しな話し方になってしまう。

 でも六花にはそれすらバレていた。

 卒業旅行の日のことを未だに照れたように話す六花が可愛いくて、思わず体が疼いてしまった。あの日、酔った六花が誘ってきてキスをしたのも、俺のキスが好きだと言ってくれたことも事実だったが、実は彼女にはまだ話していないこともある。

 あの日六花は俺の長所や短所をつらつらと並べ、そしてどれも宗吾らしくて好きだと言ってくれたのだ。

 六花はいつも俺の全てを受け入れてくれる。初めて触れ合ったあの日を境に、彼女のことをいつの間にか心から愛するようになっていた。

 たまらなくなって『したい』とつい誘ってしまった俺を、六花はやんわりと断った。

『みんながいるし、あなたは私なんかじゃもったいない人よ』

 そう言われても諦めがつかずに、朝までキスをしたいと言ったのは俺だった。『じゃあ私が寝ちゃうまで』という約束で、キスを繰り返した。

 六花と和解してから、天真爛漫で裏表のない彼女に魅了され、心を惹かれた。なのに気持ちを伝える術を知らず、卒業と同時に疎遠になってしまった。

 あの時のことを後悔していたはずなのに、俺はまだ気持ちをきちんと伝えられない。でももし今告白をしたって、昨夜の反応を見ればきっと信じてもらえないだろう。契約結婚をするための嘘だと受け取られかねない。

 なのに昨夜は我慢の限界に到達して、夢中で六花を抱いてしまった。欲求不満とか口にした後であんなことをしたら、更に誤解させてしまうかもしれないのに、それでもキスだけで煽られてしまった欲望を抑えることは出来なかった。

 今だって彼女の全てを味わって一つになりたいと思っているし、それを隠すのに必死だった。

 六花、頭も心もごちゃごちゃだって言ってたよなーーそれに好きだとも言ってくれた。友だちとしてって付け加えていたけど。

 それでも体を重ねている間は俺を受け入れてくれているように感じた。性欲なんかじゃなくて、俺だから受け入れてくれたのだと信じたかった。

 六花の本心が知りたい。人から仮定として伝えられた言葉じゃなくて、六花の口から事実だけを教えて欲しいと思う。そして二人で大切なものを守りたいんだーー。

 愛してるーーその一言が簡単に言えたらどんなに楽だろう。

 宗吾は胸いっぱいに六花の匂いを吸い込む。たったこれだけのことで胸がいっぱいになった。心が満たされ、そして再び眠りに落ちた。
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