Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
改めてホテルを探し始めた時だった。
「阿坂?」
自分の名前を呼ぶ声がして驚いて振り返る。そこには背が高くて柔らかな黒髪、どこかクールな印象を与える端正な顔立ちの男性が立っていた。体を包む細身の濃いブルーのスーツは明らかに高級品だとわかる。
こんな素敵な男性がなんで私の名前を呼ぶわけ? それにこんなに寒いのに、なんでこの人はコートを着ていないの? 困惑したようにじっと見つめていると、男性は嬉しそうに目を細めて六花に向かって微笑んだ。
「相変わらずその髪型と、そのファッションなんだな。まぁわかりやすくていいけど」
聞き覚えのあるセリフと声のトーン。記憶を辿っていくと一人の人物に行き当たる。
「まさか……貴島宗吾?」
名前を口にしたが、それでも信じられなかった。印象が違いすぎる。たった五年でこんなにも変わるもの?
「フルネームで覚えてくれているなんてびっくりだな」
宗吾は興味深そうに六花を眺めてから首を傾げる。
「っていうか、大荷物だけど旅行か出張の帰りか?」
「あ、あんたには関係ないでしょ? そっちこそ、こんな所で何してるわけ?」
別れて家を出たばかりだなんて、久しぶりに会ったこの男には知られたくなかった。
「俺はただの帰り道。見覚えのあるやつがいるなぁって思って追いかけてみたら、まさか本人とはね」
そう言うと彼は六花のキャリーバッグに手をかけようとしたので、慌ててその手を振り払う。
「ちょっ、ちょっと待って!」
「こんな大荷物、一人で運ぶのは大変だろ? 車で来てるし、家まで送ってやるよ」
「いいよ、久しぶりに会った人にそんなこと頼めないし、一人で行けるから大丈夫……」
「なに遠慮してんだよ。お前ってそんなタイプだったっけ?」
「五年振りの再会なんだから、ほぼ初対面みたいなものでしょ。もう少し気を遣えってのよ!」
息を切らしながら言い切った六花を見て、宗吾は思わず吹き出した。
「な、何よ!」
「いや、変わってないなって思って。悪かったよ、つい嬉しくて強引になった。良かったらどこかで話でもしないか?」
嬉しい? 言ってる意味がわからない。たかが大学時代の友人に会っただけのことじゃない。否定的に捉えつつも、どこかで喜びを感じている自分がいる。
「……そうね。懐かしいイコール嬉しいわけじゃないけど。少し話すのはアリね」
どうせ今夜は行く場所がないんだ。彼との話が終わったら、諦めてネットカフェに行こう。
「決まりだな」
宗吾が六花のキャリーバッグを引いて歩き出す。その隣に並ぶと、ふとあの夜のことが思い出された。
初めてお互いの本音を知って、熱くて切ない一夜を共にしたあの日ーー。
戻れないとわかっているけど、がむしゃらに前だけを向いていたあの頃に戻りたいと願ってしまう。
「阿坂?」
自分の名前を呼ぶ声がして驚いて振り返る。そこには背が高くて柔らかな黒髪、どこかクールな印象を与える端正な顔立ちの男性が立っていた。体を包む細身の濃いブルーのスーツは明らかに高級品だとわかる。
こんな素敵な男性がなんで私の名前を呼ぶわけ? それにこんなに寒いのに、なんでこの人はコートを着ていないの? 困惑したようにじっと見つめていると、男性は嬉しそうに目を細めて六花に向かって微笑んだ。
「相変わらずその髪型と、そのファッションなんだな。まぁわかりやすくていいけど」
聞き覚えのあるセリフと声のトーン。記憶を辿っていくと一人の人物に行き当たる。
「まさか……貴島宗吾?」
名前を口にしたが、それでも信じられなかった。印象が違いすぎる。たった五年でこんなにも変わるもの?
「フルネームで覚えてくれているなんてびっくりだな」
宗吾は興味深そうに六花を眺めてから首を傾げる。
「っていうか、大荷物だけど旅行か出張の帰りか?」
「あ、あんたには関係ないでしょ? そっちこそ、こんな所で何してるわけ?」
別れて家を出たばかりだなんて、久しぶりに会ったこの男には知られたくなかった。
「俺はただの帰り道。見覚えのあるやつがいるなぁって思って追いかけてみたら、まさか本人とはね」
そう言うと彼は六花のキャリーバッグに手をかけようとしたので、慌ててその手を振り払う。
「ちょっ、ちょっと待って!」
「こんな大荷物、一人で運ぶのは大変だろ? 車で来てるし、家まで送ってやるよ」
「いいよ、久しぶりに会った人にそんなこと頼めないし、一人で行けるから大丈夫……」
「なに遠慮してんだよ。お前ってそんなタイプだったっけ?」
「五年振りの再会なんだから、ほぼ初対面みたいなものでしょ。もう少し気を遣えってのよ!」
息を切らしながら言い切った六花を見て、宗吾は思わず吹き出した。
「な、何よ!」
「いや、変わってないなって思って。悪かったよ、つい嬉しくて強引になった。良かったらどこかで話でもしないか?」
嬉しい? 言ってる意味がわからない。たかが大学時代の友人に会っただけのことじゃない。否定的に捉えつつも、どこかで喜びを感じている自分がいる。
「……そうね。懐かしいイコール嬉しいわけじゃないけど。少し話すのはアリね」
どうせ今夜は行く場所がないんだ。彼との話が終わったら、諦めてネットカフェに行こう。
「決まりだな」
宗吾が六花のキャリーバッグを引いて歩き出す。その隣に並ぶと、ふとあの夜のことが思い出された。
初めてお互いの本音を知って、熱くて切ない一夜を共にしたあの日ーー。
戻れないとわかっているけど、がむしゃらに前だけを向いていたあの頃に戻りたいと願ってしまう。