夜を照らす月影のように#6
ノワールは、小さな声で弱音を吐く。その声は、僕の耳にしっかりと届いていた。

「……皆僕を必要としていない、僕は嫌われてるんだって思ってしまう自分が嫌いだ……消えたいよ……」

「……そっか……ごめんね。辛い思いをしているのに、それに気づかなくて……辛かったよね……大丈夫だよ。少なくとも、僕は修也を必要としている……だって、修也のことが好きだから!」

僕がノワールを抱きしめながらそう言うと、ノワールは「え?」と反応した。恥ずかしくなったから「最後のは、聞かなかったことにして!」と返す。

「君は……ノワールとしての記憶をすべて失っている。太宰修也の人生は、辛いことばかりだったよね。でも、ノワールの人生は温かいものなんだよ」

温かい家庭で育てられて、温かい家族がいて、温かい仲間がいて。

ノワールは、前世とは真逆と言っていいほど、幸せな毎日を過ごしている。

「……そんなの……そんなの、酷いじゃないか……修也の、辛い人生だけ記憶に残ってて、ノワール……だっけ?の記憶は全部忘れるって……そんなに幸せな毎日なら、忘れたくなかった……思い出したいよ……零、助けて……苦しいよ……」

「……今は零じゃない。僕は、メルキュール。修也……いや、ノワールにメルって呼ばれてるから、メルって呼んで欲しいな」
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